もう1つの夢-。競泳男子背泳ぎの金持(かなじ)義和(23=エイベックス)が2日、都内で取材に応じ、世界の聴覚障害者が競う夏季デフリンピック(7月、トルコ)での3冠を誓った。

 初出場の前回大会は背泳ぎ50メートルを27秒68の世界新記録で優勝、同100、200メートルも2位と大活躍した。「今大会は世界レベルも上がって厳しい戦いになると思うけど、3冠は達成しないといけない」と気合を入れた。

 前回大会の50メートル決勝前日は突然、腹痛に襲われた。母カツコさんから“特効薬”となる大嫌いな梅干しを嫌々ながら3個食べさせられ、回復して世界新を樹立した。「あれ以来、一切口にしていないけど、梅干しってすごいなと思った。嫌だけど今回も持って行きます…」と苦笑いした。

 佐賀県出身。1歳の時、髄膜炎にかかり左耳の聴覚を失った。6歳の時には右耳がほぼ聞こえなくなった。周囲から特別な視線も感じたがプールは違った。水泳教室のコーチだったカツコさんに連れられて、生後8カ月で水に漬かった。「人前では緊張するけど、プールだと緊張しない。居場所はプール」。耳は聞こえないが、健常者と競い合ってきた。スタートの号砲は聞こえないが、隣選手の反応を敏感に察知した。県内では小中高と「敵なし」が続き、高校総体や国体で活躍した。大阪体育大進学後は週6日、最新のトレーニング法を学び、競技にのめり込んだ。現在は同大大学院でバイオメカニクスを学んでいる。

 金持にはデフリンピック3冠の他にもう1つ夢がある。168センチと小柄だが高校まで得意のバサロを武器に健常者と戦ってきた誇りがある。「夢は健常者の日本選手権に出場すること。標準記録が上がっているので今の記録では出場できない。健常者と戦ってきたからこそ、そういった大会の価値を感じるし、なんとかそのレベルまで自分を持っていきたい」。負けず嫌いにまた火が付いた。