女子1500メートルでこの種目日本勢初出場の田中希実(21=豊田自動織機TC)が世界を驚かせた。準決勝1組で5着に入り、着順で6日夜の決勝進出。タイムは予選で出した自身の日本記録を約3秒上回る3分59秒19。72年ミュンヘン五輪で実施されて以降、日本人は1度も走っていなかった。出場するだけでも快挙だが、初めて日本人で4分を切り、何と決勝に残った。

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153センチの小さな体に秘めるエネルギーを出し尽くした。レース後、田中は取材エリアで柵にもたれて、しばらく話ができなかった。「4分を切れば残れると思っていた。できる確信はなかったが、理想通りのタイムで決勝に進めてうれしい」。序盤から先頭争いし、ハイペースで集団を引っ張った。「きついが、その方が決勝に残れる可能性が高い」。大きい舞台では「人格が変わる」という。「ネガティブ」な性格は消えて、攻めた戦略は、はまって格上しかいない海外勢の後半の力を奪う。残り2周でトップ争いから後退も、粘った。過密日程の五輪では力を発揮できない選手もいる。ただ、故障を心配する外野の声をよそに「10週連続レース」など鍛えてきた。だから平気だった。

陸上界では珍しい父子鷹。同大4年だが、陸上部に所属せず、父健智さん(50)の指導を受ける。競技場、移動の車内、自宅。場所を問わず「ケンカ」で衝突しながら、日々の練習を模索した。貫いたスタイルは異端でもあるが、ここまでの結果が正しかったと証明した。ハイスピードで走り続けることが必須で、日本勢は世界と戦えない-。独自のスタイルでそんな常識とされた考えをも、打ち破った。【上田悠太】