マルチスイマーの鈴木孝幸(34=ゴールドウイン)が、5種目でメダルを獲得した。ここまで金1個を含み全4種目でメダルを獲得している鈴木は、50メートル自由形(運動機能障害S4)でも37秒70の好タイムで銀メダルを獲得。「金を含む全種目メダル」の目標を達成し、今後のパラスポーツに関わる活動にも意欲をみせた。女子50メートル背泳ぎ(運動機能障害S2)では山田美幸(14=WS新潟)が同100メートルに続いて銀メダルを獲得した。日本のメダル総数は27個となり、前回大会の24個を上回った。

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銀メダルを手にして、鈴木は満足そうだった。スタートこそ「つまずいてしまい」出遅れたが、その後は「リカバリーはベストだった」と快調に飛ばした。肘から先がない右腕と、指が3本の左腕を推進力に、膝下がない左脚を左右に振りながらバランスをとる。ダダオン(イスラエル)に遅れて2位でゴールすると、鈴木らしく冷静に喜びをかみしめた。

「金メダルをとる。全種目でメダルをとる。東京大会に向かって立てた2つの目標がともにクリアできたので、うれしいです」。淡々と話した。5種目とも狙っていたベストタイムは出せなかったが、いずれもベストに迫る好タイム。「大会を通じて、多くの方に応援いただき、力になりました」と周囲に感謝した。

大会前は「これが最後になるかも」と話していたが、好成績に「まだ進化している。(今後は落ち着いてから考えたい)」と現役続行にも含みを持たせた。もっとも、34歳の体に疲れは隠せない。「今は、トレーニングはしたくないですね」とも話した。

5個のメダルを手にした鈴木だが、大会中にもう1つの「メダル」獲得を狙っている。国際パラリンピック委員会(IPC)のアスリート委員選挙。改選数6に対して鈴木ら22人が立候補している。投票権を持つのは選手たち。3日まで選手村内で投票が行われる。もちろん、連日の活躍も後押しになるはずだ。

「アジア圏の障がい者スポーツ発展に尽くしたい。IPCとの懸け橋になりたいんです」と話す。「アジアの代表として情報共有していきたい」と、意欲をみせる。8年前に英国留学。ニューキャッスルにあるノーザンブリア大大学院博士課程で研究を続けるテーマは「パラアスリートのクラス分け」。これも、突き詰めたいと考えている。

04年アテネ大会から数えて5大会目。「個人的にも成績は一番よかった」と話し「オリと同様に、パラのことも知っていただけたかなと思う」と、最高の地元大会を振り返って、満足そうに言った。【荻島弘一】

◆夏季パラリンピックの日本勢1大会最多メダル 04年アテネ大会競泳女子の成田真由美の8個が最多。個人種目6個と4×50リレーで計7個の金メダルを獲得し、4×50メドレーリレーでも銅メダルを手にいた。金7個も日本勢の1大会最多金メダル記録。成田は00年シドニー大会でも金6、銀1の計7個のメダルを獲得している。冬季では18年平昌大会アルペンスキー女子の村岡桃佳の5個(金1、銀2、銅2)が最多。成田(競泳)、村岡(陸上車いす)ともに今回の東京大会に出場したがメダルには届かなかった。