マンチェスター・ユナイテッドがついにグレイザー家の呪いから解かれることになるかもしれません。グレイザーことマルコム・アービング・グレーザーは1970年代にフロリダを中心に様々なビジネスを起こして息子と共に拡大させ、大きな富を築きました。2014年に亡くなりはしましたが、その築いた富をスポーツ界に流し込んだことで非常に名が通った存在でした。1995年にNFLのタンパベイ・バッカニアーズを当時のプロスポーツ買収最高額金額であった約2億ドルで買収。すぐさまスタジアムの改修工事を行い、7年を要しはしましたがスーパーボウルを制覇するなど一時代を築きました。勢いそのままに2005年に7億9000万ポンド(約1330億円)もの大金でマンチェスター・ユナイテッドを買収。しかしながら直後に脳卒中で倒れ、さらにバッカニアーズが低迷。これだけではなく、マンUの買収資金の大半がクラブ資産を担保に入れた高利息の借金をしたもので調達しており、そこへ金融危機(サブプライム住宅ローン危機)で資金繰りが悪化。一気に多額の負債を抱える借金クラブとなってしまい、ファンからはグレイザーの呪いと揶揄されるほどでした。
そんなグレイザー家(マルコム氏が亡くなったあとは息子が受け継いでいる)はクラブを批判したポルトガル代表FWロナウドを双方合意のもとで契約解除。同日の取締役会にてクラブの戦略的選択肢を検討するプロセスを開始したことも併せて発表。ファンとしてみればようやくグレイザーの呪いが解け、新たな船出への期待は大きいです。それを示すようにこの発表直前に13ドル前後であった株価は一気に21ドルまで高騰。新たなオーナーのニュースが出るたびにその期待値を示すように最大27ドル近くまで株価は上昇しました(ちなみに13ドルは2012年の公開価格の14ドルを下回る水準でした)。
ビジネス目線で行くと、例えばチェルシーは近年31億ドルで買収されたのですが、仮に同額レベルの取引となった場合、つまり今クラブを売却すればグレイザー家は8億ポンド前後で購入したものが30~40億ポンドで売れることになり(クラブの希望売却価格を40億ポンド、約6180億円に設定と報じられた)大儲けするわけなのでありますが、ここで1つ注目すべきなのはこういったディールを仲介している人々でもあります。つまり、誰かがこのメガ・ディールを操作することで値段を釣り上げて儲けているということなのですが、報道ではその誰かというのは米国のゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーといった証券会社や、JPモルガン・チェースやバンク・オブ・アメリカといった銀行だと言います。彼らが中心となり、「マンチェスター・ユナイテッドはチェルシーよりもはるかにサポーターが多く、さらに競技場も大きく、当然収益力も大きい。近年5年間未タイトルではあるが常に年間約1億ドル近いキャッシュフローを生み出しており、比較的安全な投資先とみなされる」などという形でクラブへの投資を促進しているというのです。さらにクラブ買収を売り込んでいる先がイギリスで最も裕福と言われる実業家であったり、アラブの元首相の息子であったりしているようなのですが、結局は巧みにアメリカ金融機関にコントロールされて高い金額を支払わされているだけなのではないか? と感じてしまいます(この動きはM&Aを手がける側としては当たり前と言えば当たり前の動きではありますが)。
富豪にとっては痛くも痒くもないような金額なのかもしれません。しかし、ただでさえクラブ自体は借金丸抱えの状態ということで、こういったネガティブな状態は永遠に改善されないのがフットボールの世界なのかもしれません。ファンからしてみれば、高値の手数料を支払ってでもグレイザー家の呪いを解いてほしいと思っているのが本心であることは明確に感じますが、今後マンUが誰の手に落ちるのか、注目です。
【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)




