悔しさこそ、次なる成長への糧となる。テレビの中でサッカー日本代表MF三笘薫(25=ブライトン)が涙を流す姿に、そう思った。
FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会でドイツ、スペインという強豪を破り、日本が16強に進出した。大躍進したチームにあって、最も注目された選手と言えば、三笘ではなかろうか。特にスペイン戦の後半6分に、ゴールライン際から決勝点をアシストした「1ミリの奇跡」は、後世に語り継がれるプレーとなった。
決勝トーナメント1回戦のクロアチア戦でも、後半14分に自陣から60メートルもドリブルで突き進み、右足で強烈なシュートを放った。惜しくもGKにセーブされたが、これぞ三笘というプレーだった。突出した個が光り輝いた。
試合後、この場面について問われると「もっと精度を上げないといけないと感じました」。決まらなかったら意味はない。そこに満足感はなかった。
どこか既視感のある光景に、今から3年前のことを思い出した。
■無得点で明治大に敗れる
2019年12月16日、東京・西が丘サッカー場で行われた全日本大学サッカー選手権の準々決勝。筑波大の4年生だった三笘は途中出場ながら無得点に終わり、明治大に0-1と敗れた。三笘にとっては、これが大学最後の公式戦となった。
涙こそなかったが、悔しさを押し殺すように唇をかんでいた。その姿は印象的だった。当時取材したコメントが残っている。
-大学生活が終わりましたが?
「ここで成長したことをプロの世界で発揮できなければ意味ないので。この4年間で成長した分、(プロの)結果で残していきたいと思います」
-プレー、精神面でどういうところが成長?
「プレーは自分の長所を磨くことができましたし、大学サッカーならではですけど、いろんな人の支えがあってサッカーができた。そういう感謝する気持ちが分かったので、それをピッチで表現していきたいと思います」
-プレー面での課題は?
「体力面とシュート、最後に決めきるところです。いろいろありますけど、もっともっと走り勝てなければ、明治さんみたいにあれだけ運動量ある中で、僕らの弱さが出てしまっているので。僕自身もそうですけど、走り勝てるように、体力もつけていかなければと思っています」
そして三笘の真骨頂とも言える、自陣から一気に敵陣まで突破するドリブルについて聞いた。
「まだまだ、行ってからが勝負なので。そこまで行ったのがいいことではなくて、味方を使うなり、シュートに持っていくなどしないと。そこまでの課程というのは意味がなくなってしまうので。そこで満足しているようじゃ飛躍がないし、最後のクオリティーを上げるというのが自分の課題なので。そこにこだわらないといけない」
さらに今後の目標や目指す選手像を問うと、明確な答えが返ってきた。
「日本代表に入りたいですし、そのためにももっともっと個のクオリティーを上げないといけない。海外の選手はもっと速いですし、うまいので。自分の個のクオリティー、能力を上げていかないといけない」
日本代表-。その時、既にW杯カタール大会への出場を思い描いていたのだろう。
■大学で学び得た思考力
あれから3年。三笘は川崎フロンターレで大活躍を遂げ、東京五輪にも出場し、欧州へも移籍した。プレミアリーグでプレーし、世界最高峰の大舞台のW杯でも世界中から注目されるようなプレーを次々と披露した。
川崎Fユースからトップ昇格せず、大学進学を選択した。サッカー選手のキャリアとしては一見遠回りのようだが、自ら望んで大学で学び、その思考力に磨きをかけた。そういう実感もあってだろう。当時の取材に「深い考えを持って発信していくところは求められてくるので、その代表格になれればいいなと思います」とも語っている。
初めてのW杯は悔し涙で終わったが、それは次なるW杯へのステップアップを誓うもの。3年前の言葉を確実にクリアしてきた。その成長ベクトルを考えれば、さらなる3年先の姿が楽しみでならない。
【佐藤隆志】