40歳以上のJリーガーが珍しくなくなった。56歳になるカズ(三浦知良)の背中を追うように息の長い選手が増えている。その薫陶を受けた選手の1人と言えば、J3のYSCC横浜(YS横浜)に所属する元日本代表MF松井大輔だろう。
41歳10カ月、プロ24年目。鹿児島実から2000年(平12)、憧れだったカズが在籍していた京都パープルサンガに入団。以降、親交は深く(2018~20年には横浜FCでも一緒にプレー)、サッカー人生で最も影響を受けた人物と公言する。
その松井が今季、年齢を感じさせないプレーで存在感を発揮している。
■J3歴代2番目の年長ゴールを記録
3月5日のJ3開幕戦、富山戦(ニッパツ三ツ沢)でゴールを奪った。後半23分から途中出場すると同34分、左CKからニアサイドで味方選手がフリックしたボールを頭で押し込んだ。自身初というヘディングでのゴール。試合には1-2と敗れたものの、41歳9カ月22日での得点はJ3歴代2番目の年長記録とした(1位はFC今治MF橋本英郎、21年5月2日の宮崎戦での41歳11カ月11日)。
続く3月11日のガイナーレ鳥取戦(ニッパツ三ツ沢)。この日もリードされた状況の後半19分から登場すると、またしてもピッチの雰囲気を変えた。
1-3とされた直後の同28分、中盤から相手がカウンターを仕掛けようとしたところ、松井は激しいスライディングタックルを相手選手に見舞い、鮮やかにボールをカット。気持ちもサッカーも受け身となっていたチームには最高のゲキだろう。どこか、かつての「ピッチの闘士」ラモス瑠偉の姿が重なった。
その1分後、YS横浜がカウンターを仕掛けた。右サイドからグラウンダーで2つ横パスがつながり、さらに中盤からゴール前へと走り込んだ松井のもとへパスが送られた。
絶好の得点チャンス。松井の左足シュートは鳥取GK糸原紘史郎の好セーブに阻まれ、得点とはならなかった。ラグビーのライン攻撃のような縦に走りながら、テンポ良くボールが横へ横へと渡っていくハーモニーあふれる展開。そこにはピッチのコンダクター、松井の真髄が見て取れた。
■2010年W杯南アフリカ大会の姿
技術と創造性のファンタジスタというイメージが強いが、その根っこにあるのは闘争心だ。その姿は、13年前に現地取材した2010年ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会の記憶を甦らせるものだった。
初戦のカメルーン戦を前にして、当時の松井はこう言った。
「最初にガツンといきますよ。『ももかん』を。それも思いっきりキツ~いやつ。オレはフランスでもやってきましたから。(試合開始直後の)ファーストコンタクトでガツンとやらないとナメられる。アフリカの選手はみんなそう。誰かが(一撃を)やらないといけない。オレがやる」
そのカメルーン戦。エトーへの「ももかん」こそなかったが、遠慮なく闘っていた。ガンガンボールを追い、体をぶつけ、逆にボールを持てば、3トップの右から鋭いドリブルで仕掛けた。複数の相手に勇猛果敢に切り込んでいく姿は、映画の中の侍をほうふつさせるものだった。
カメルーン戦では本田圭佑の決勝点をアシスト。MVPは誰かと問われれば、「文句なしで松井」だと答える。続く第2戦の対オランダで見せた意表を突くループシュート、その後も攻守に渡る切れ味鋭いプレー、闘士あふれる姿はチームに大きな勇気を与えた。16強躍進の立役者だと言っても過言ではなかった。
時を戻してこの日の鳥取戦。結果的に自身はゴールを奪えず、試合も1-3と敗れた。それでも中盤の底から相手「ポケット」を突く絶妙な縦パスや、チョンとでスペースへ送り込むグラウンダーパス、そしてボールカットを狙る相手選手の足を外すようにヒョイと浮かせたパス。プレーの1つ1つ、どれも見るものの心をつかむには十分なものだった。
■自らプレーしながら人を育てる
試合後、足早に去ろうとする松井に声をかけた。
-今日は立て続けに失点(後半13分、14分)して、もったいない試合でしたが
「前半はいつも通りというか、先発メンバーが(頑張って)やってくれたと思いますし、後半になってYSの悪さ出たかなと思います。受け身になってしまい、いつも後半で下がってしまうので。やっぱり(前半を終えて)1-0ということで、本当だったらもっと仕掛けていかないといけないし、もっと前が1点取るんだという気持ちが必要だなと感じました」
-ここ2試合は途中から入ってますが、どういうプランを持って?
「点取られてからは自分が出て、うまくフィニッシュまでというのはイメージできたと思います。ただ点が取れなかったというのは残念です。自分としては、まだコンディションが100%じゃないので、まだ練習やって3週くらいしかたっていないので。しっかりもうちょっとコンディション上げていけたらなと思います」
-ビッグチャンスもありました。2試合連続得点はなりませんでしたが?
「練習足りないです、はい練習が」
今季は選手でありながら、チームの「コーチ」としての役割も持っている。
それゆえ、この日の先制点を決めたFW福田翔生(しょう、実兄はガンバ大阪MF福田湧矢)について問われると「最初に見た時に福田は化けるんじゃないかと思った。それは彼の今からの練習の成果だったり、モチベーションだったり、となってくると思う」。
そう言うと、続けて「このチームから1人、2人、3人くらいJ1、J2に上がることができればいいし、そういうチームだと思うので。若い選手が何かを得てね、上に上がってほしいなと思います」。
自らプレーもしながら人も育てる。今年で42歳を迎える松井は、サッカー選手として新たなフェーズに入っているようだ。
開幕から連敗スタートと結果こそ出ないが、次節へ気持ちを切り替えるように「チャンスで決め切れなかったりするけど、みんなで底上げしながらやっていければと思います」と言った。
■今季Jリーガーで40歳以上は14人
ビジネス用語に「メンター」という言葉がある。自身が仕事やキャリアの手本となって、新入社員や若手社員に助言・指導をし、個人の成長や精神的なサポートする人のことだ。
松井ら40歳オーバーの選手たちはまさに、その立場にある。人材育成を施し、クラブの成長のみならず、引いては日本サッカー全体の発展に寄与している。
ちなみに今季のJリーガーで40歳以上(今年の誕生日時点)の選手は14人いる。プレーの評価のみならず、メンターとしての付加価値も期待されてのことだろう。
<今季Jリーグ登録の40歳以上選手>
50歳=村木伸二(J3=FC大阪DF)73/8/1(0、0)
49歳=伊東輝悦(J3=沼津MF)74/8/31(0、0)
46歳=本間幸司(J2=水戸GK)77/4/27(0、0)
44歳=小野伸二(J1=札幌MF)79/9/27(0、0)、南雄太(J2=大宮GK)79/9/30(0、0)
43歳=遠藤保仁(J2=磐田MF)80/1/28(4、0)、山本英臣(J2=甲府DF)80/6/26(3、0)
42歳=松井大輔(J3=YS横浜MF)81/5/11(2、1)、山瀬功治(J2=山口MF)81/9/22(2、0)
41歳=梁勇基(J2=仙台MF)82/1/7(0、0)、柴崎貴広(J3=富山GK)82/5/23(0、0)、林卓人(J1=広島GK)82/8/9(0、0)
40歳=岡本昌弘(J1=鳥栖GK)83/5/17(0、0)、加賀健一(J2=秋田DF)83/9/30(0、0)
※年齢は今年の誕生日時のもの。カッコの数字は今季リーグ戦出場試合、得点。
■「年齢はただの数字」という意識
12日に開幕した日本フットボールリーグ(JFL)にも、今年で44歳になる元日本代表FW高原直泰(沖縄SV)がおり、さらに地域リーグを見れば今年で44歳になる元日本代表MF稲本潤一、1月で40歳になった元日本代表DF今野泰幸(ともに関東1部リーグ南葛SC所属)らもいる。
そして言うまでもなく、日本の年長選手と言えばキング・カズ(ポルトガル2部オリベイレンセ)がいる。御年56である。
彼らはこれまでの貴重な経験を周囲に伝え、そしてサッカー以外の活動にも関わり、そんな自らの姿を通して社会にも少なからずの影響を与えている。
「Age is just a number(年齢はただの数字)」。歳を重ねただけで人は老いない。
そんな言葉が頭に浮かぶ。
年齢をいい訳にしない、限界をつくらない。松井ら40歳を超えて今なお血気盛んなフットボーラーの姿に、おじさん筆者も勇気をもらっている。【佐藤隆志】