日本人選手は決定力不足だと長らくいわれている。果たして決定力とは何を意味し、改善の道はどこにあるのか。さまざまな視点から5回連載で考える。1回目はジュビロ磐田の名波浩監督(45)。日本代表の司令塔として活躍した指揮官は「ミート率」に着目していた。

 名波監督は決定力不足の理由を問われ、迷わずミート率の低さを指摘した。14年夏に磐田の監督に就任し、この問題を実感。16年まで在籍した元イングランド代表FWジェイ(現札幌)の名前を持ち出し、日本人との決定的な差を語った。

 「練習でも、ジェイは8割ぐらいずっとミートしてシュートを打っている。日本人は半分の4割。ミート率が低い。ジェイが20点取るとしたら、日本人は10点しか取れない。単純計算になってしまうけど、そういう指標になる」

 シュートと言ってもさまざまな形がある。ロングやミドル、GKとの1対1やクロスからの1タッチシュートなど。また、ストレートやブレ球、カーブをかけたボール。強烈な一撃から柔らかなループまで、捉える足の部位や力の加減によって質も多種多様だ。

 ミート率も単にボールの芯を捉える確率のことではない。試合で迎える決定機。その時に置かれた状況に応じてボールの質、スピードを判断し、空いたコースを正確に射抜く力。その要素が欠けているという。ゴール前10メートル以内の位置、近距離からのシュートを例に挙げて説明は続いた。

 「ゴールを(左上から)9カ所に分けたと仮定したら、(1)(3)(7)(9)のエリアは基本中の基本。力を抜いた感覚で、そこに意図的にボールを持っていく。ジーコでいったらゴールに『パスをする』。俺はよく選手に『置いてこい』と言っているけど。特に10メートル以内では、フルスイングしなくてもゴールは決められる」

 手本に挙げたのはJ1最多の181得点を記録している川崎Fの元日本代表FW大久保嘉人だった。

 「日頃から選手に『難しいことを簡単にやっているように見せてこそプロ』と言っているけど、それはシュートも同じ。簡単に見せられる選手はシュートがうまい。日本人では嘉人が群を抜いている。ミート率が高い上にパワーもある。8割ぐらいの力で他の選手の10割ぐらいの感覚だから(正確に打てる)。コースに流し込む形のシュートがうまい選手は、単純にシュートがうまいとも思っている。そういう意味でも嘉人は、1タッチゴールも多いし、しっかり足の面で捉えられている」

 磐田の黄金期を支え、日本代表の司令塔としても国際Aマッチ67試合に出場。シュートの一段階前となるパスの「出し手」として活躍した自身の現役時代を振り返り、確実にミートする難しさも感じていた。

 「ゴールやGKの位置を見て、さらに敵と味方のシチュエーションを把握する。パスがイレギュラーすることもある。FWは難しい作業が求められていると思う。(現役時代は)シュートエリアに入ると、どうしても力が入ってしまっていた。そうでなければ、もっと点を取っていたと思う」

 力が入ってしまう-。この言葉に改善のヒントがある。ミート率が上がらない要因について、名波監督は練習の量ではなく、質の問題を指摘する。監督就任から1カ月間、選手たちが居残りで行っていたシュート練習を黙って見守った。

 「練習の量自体は多いと思うし、各自が得意な形も持っている。ただ、実戦をイメージした練習が少ないと感じた」

 では、いかにしてミート率を高めるのか。「30歳からでも練習すれば絶対に上がる」と言い切る名波監督の答えはシンプルだ。現在は、磐田での居残り練習で自ら球出し役を務める。浮き球や回転をかけたボール。緩いパスから一転、急にシュート性の強いボールなど、選手は実戦を想定した不規則なパスからのシュートを繰り返している。

 「試合の中で『この形は練習でやった』と感じてもらいたい。シュートを打つまでの過程に余裕を持っていれば力まずシュートを打てるし、ミート率も上がる。ジェイも幼少期からやってきたからこそ、違和感もなく練習に入れるし、ミート率も高い。筋力がついた状況からでは、どうしても無理に力だけで打ってしまう。まだ力がない幼少期から練習した方が、シュートはより簡単に見せられる」

 育成年代から、常に本番を想定した鍛錬を積み重ねる。永遠の課題といわれる決定力不足の改善は、そこにあるのかもしれない。【前田和哉】

17年10月、東京-札幌戦の後半2分、札幌FWジェイが右足を振り抜く
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W杯の国別通算得点数
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