日本代表のバヒド・ハリルホジッチ元監督(66)が約1年前の電撃的な解任を巡り、日本サッカー協会(JFA)の田嶋幸三会長(61)と日本協会に慰謝料1円と新聞やホームページでの謝罪広告を求めた訴訟が電撃的に終結した。10日、ハリルホジッチ氏側が何の前触れもなく、訴えを取り下げた。元日本代表監督が、雇い主の日本協会と会長を訴えるというピッチ外でのデュエル(決闘)は、判決が下ることなく、田嶋会長の解任会見から1年と1日、予想外の形で幕を下ろした。

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いつどんな時も、誰に対しても闘う男が、振り上げていた拳をおろした。現在フランス1部ナントの指揮を執るハリルホジッチ氏が、名誉回復を求めた異例の訴訟を突如取り下げた。公式サイトに「私は現在、自らのサッカー監督としての責務に真摯(しんし)に向き合っており、従って私は自分の未来への挑戦に専念すべきだと考えました」と書いた。日本への感謝と愛もつづられている。

クビになった時と同様、こちらもまさかの幕切れだった。W杯ロシア大会まで約2カ月で電撃解任され「ゴミ箱に捨てられた」と涙し、その後に訴えた。会見で「コミュニケーション不足」と田嶋会長が世界中に理由を説明。これを人格否定のような発言だとし、裁判に打って出た。田嶋会長による解任会見が18年4月9日。あれから1年と1日。公式サイトのメッセージによると決断は8日だったようだ。この日、予定通り東京地裁で非公開で行われた弁論準備手続きの席上、代理人弁護士から取り下げ書が提出された。

提訴は昨年5月24日。その後のW杯ロシア大会で日本は16強入りし、電撃解任は過去のことのようになったが、弁論準備手続きがほぼ月1回のペースで進んでいた。両者の主張は、解任前の指揮官と一部の日本代表選手のように平行線。ハリルホジッチ氏も田嶋会長も出席せず、代理人弁護士同士のせめぎ合いが続いた。東京地裁は同12月に和解を提案。しかし同氏側が続く1月にこの和解案を蹴る。夏ごろには判決が出るとみられていた中、まさかの結末だった。

当初からハリルホジッチ氏側が劣勢と見る向きが多く、この件では終始冷静だった日本協会側は“勝ち点3”を手にしたムード? だった。東京・JFAハウスで取材に応じた田嶋会長も「このように裁判が終わって、良かった。ぜひ、今後も彼のことをできるだけ応援していきたいと思っています」と話した。

在任時の発言ややり方はどうあれ、日本サッカーの発展を願うもの同士のピッチ外の争い。判決で白黒つけて、傷を負うようなことなく終わった。およそハリルホジッチ氏らしくはないが、これはこれで良かったのかもしれない。【八反誠】