日本が7大会連続7度目のW杯出場を決めた。序盤1勝2敗の窮地から監督解任の危機を乗り越えて6連勝。「森保ジャパン 崖っぷちからのW杯切符」と題して、森保一監督(53)の選手への思い、長年の右腕の存在、過去の代表監督から学んだことなどを紹介する。第1回は2敗目を喫した昨年10月7日のサウジアラビア戦の試合後の騒動を振り返る。

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試合後のインタビューが、ピッチ外で始まろうとしていた。マイクの前に立った森保監督。次の瞬間。表情が、一変した。視線を目の前のカメラから、スタンドの方へ移した。そして叫んだ。

「止めろぉー!」

歓喜に沸く、サウジアラビアのサポーター。悲鳴交じりのお祭りムードを、森保監督の怒声がかき消した。近くにいた代表スタッフはハッとした。振り返ると、インタビューを受けるはずの吉田がスタンドへ歩みを進めていた。敵地での一戦はDAZN(ダ・ゾーン)での独占配信。画面越しには、スタンドに詰め寄る吉田を必死に制止する代表スタッフが映し出されていた。だが、森保監督がいち早く気付いたからこそ、最悪な状況、衝突は避けられていた。

昨年10月7日。敵地でのサウジアラビア戦だった。0-1で敗北。日本は最終予選3試合目で、早くも2敗目を喫した。悔しさと、不安が募る中、吉田は試合後にサウジのサポーターから差別的な行為を受けた。森保監督は、当時のことを「そんなこと、言いましたっけ? 自分は気になっていなくて」とけむに巻いたが、代表スタッフの耳には、指揮官の初めて聞く怒号がしっかりと残っていた。

森保監督は言う。「国の威信をかけて戦っている中、ピッチ内、スタンド内、テレビの前と見てくれている人が、エキサイティングになることがサッカー」。そう認めつつも「選手が危険にさらされることはあってはならない」と厳しい表情で引き締めた。敗戦の直後、フラストレーションもたまり、ちらつく「解任」の文字。壮絶なストレスの中、選手の心配が最優先事項だった。

世間では「森保監督が止めに行った方がいい」という声も上がった。本人は「賛否があることは、いいことだと思います。あの時、私はインタビューがあったから、行けませんでしたが、常にスタッフ含めて、みんなで選手を守らないといけないと思っています」。日本代表の監督であり、選手を温かく見つめる父のよう。そんな指揮官の下、チームはそこから6連勝。絶望と怒りの日から、W杯の切符をつかんだ。

そのサウジ戦での差別騒動後。2人は冷静にインタビューを受け終わると、森保監督は吉田の肩をたたいた。「けんかは、すべきではない」。悔しさを受け止め、優しく言った。吉田は大きくうなずいた。2人に、それ以上の言葉はいらなかった。【栗田尚樹】

(つづく)