[ 2014年2月10日8時56分

 紙面から ]女子モーグル決勝を滑り終えた上村は、泣きまねをしておどけて見せた(撮影・井上学)<ソチ五輪:フリースタイル>◇決勝3回目◇8日◇女子モーグル

 階段を上り終えた先に待っていたのは、幻のメダルだった。8日(第2日)、フリースタイルスキー・モーグル女子の決勝で、5度目の五輪でメダル獲得を狙った上村愛子(34=北野建設)は惜しくも4位に終わった。決勝1回目は9位で通過。同2回目はぎりぎりの6位で通過し、最終順位を決める3回目は攻めの滑りを見せたが、0・83点差でメダルに届かなかった。前回バンクーバー五輪と同じ、残り3選手の段階で1位にいたが、次々に抜かれて4位。試合後に、五輪からの引退を表明した。

 「メダルは、あっ取れたかなとか思ったんですけど、そっかまた4番だったんだなと。結果はメダル取れなかったですけど、すがすがしい気持ちです」。上村はまるで、その首にメダルが掛かっているかのように話した。バンクーバー五輪金のハナ・カーニーが花束を持ち、悔し涙の横で、充実感を漂わせた。

 なんでメダルが取れないのか。現役続行を決めた後、その理由を探し続けた。「メダルが取れていないのは、何かが足りないということ。それが何なのか、ソチまでに答えを出したい」と話していた。

 13年4月、都内で合同合宿があり、宇宙飛行士の野口聡一さんが講演した。上村は最後まで残り、Tシャツにサインをもらい、一緒に写真を撮った。講演会を聞きたい、興味ある人物だった。「野口さんは夢をかなえた。だから、私に足りないものを持ってるはず」。

 自分に足りない部分も、出来ていない部分も、すべてを「いい」と受け止め、スタート台に立った。過去4回の五輪でやり残していた「気持ちが弱くて、滑り切れていない」という課題は、卒業した。予選前に伊藤、決勝前に村田が負傷で棄権し、日本勢はただ1人。「悔しい思いをしている選手がいて、私は後ろを向いている場合じゃない」。攻める理由が、もう1つ増えた。

 決勝3回目、最初の上村は30秒46で6人中最速タイム。エアも完璧に決め、ターンは1カ所乱れただけの20・66点。残り5人を待った。3人目まで1位をキープしたが、最後の3人に一気に抜かれた。前回五輪とまったく同じ状況だった。違うのは、涙からすぐ笑顔になれたこと。「ちゃんと全部攻めていた。バンクーバーもトリノもミスしたり、攻めきれない滑りをしていたけど、今回は全部全力でアタックできていたので満足度は高いです」。

 中2の時、カナダへの旅行でモーグルに出会い、20年。地元の長野、競技を突き詰める人生を選んだソルトレークシティー、エアでコークスクリュー(軸を斜めに2回転)に挑戦したトリノ、皆川と結婚して夫婦で出場したバンクーバー。1年の休養を経て、ソチでたどり着いた先は、4位だった。

 女子高生は、エースになり、妻になり、ベテランになった。「達成感はマックスです。五輪でいい滑りができてよかったなというのと、こういう気持ちになるのは最後だと思う。五輪は悔しい思いも苦しい思いもするけど、自分も成長する。最高の場所です」。上村愛子の五輪物語は、完。【保坂恭子】