<第88回箱根駅伝>◇2日◇往路◇東京-箱根(5区間108キロ)

 東洋大の「山の神」柏原竜二主将(4年)が、最後の山登りを前人未到の大記録で締めた。5区(23・4キロ)を1時間16分39秒で走破し、2年前に自ら樹立した区間記録を29秒も更新し、4年連続区間賞を獲得した。チームも昨年記録した往路最高記録を、実に5分5秒も更新する5時間24分45秒の新記録で、史上4度目の往路4連覇。前回総合優勝争いで21秒差で敗れた、往路2位の早大に5分7秒の大差をつけた。4年間の思いが詰まった闘将の気迫あふれる走りで、チームは3度目の総合優勝に力強く王手をかけた。

 過去3年とは状況が違った。小田原中継所。2位早大に1分54秒差をつけ、柏原がトップでタスキを受けた。追う者がいない。しかし、山の神は山の神だった。「後ろで宇野、啓太(設楽)、憲二(山本)、田口が頑張った。次はお前の番だ!」。酒井監督のゲキに、闘将が熱いハートで応えた。

 最初の1キロこそ2分55秒と抑えめのペース。それでも箱根湯本駅の5・5キロすぎ、本格的な登りが始まると自然とスイッチが入った。追い越す相手は「2年前の自分」だ。9・6キロの大平台ヘアピンカーブを29分34秒で通過し、7秒上回る。10キロ地点は23秒、14・2キロの小涌園前は10秒更新。くねくね曲がりくねった急勾配の坂道が、ボディーブローのように体を痛めつける。表情は苦痛でゆがむが、ここから真骨頂だった。

 「1秒でも削り出せ」。昨年21秒差で敗れた悔しさがよみがえる。4年間戦ってきた仲間たちの顔が脳裏に浮かんだ。18・4キロの芦之湯フラワーセンター前は2年前より13秒短縮。山頂874メートルの天下の険を征服すると、あとは下りだ。「転んでもいいからドンドン攻めよう」。勇敢に大地を蹴り続けた。迎えたゴールの瞬間、3度のガッツポーズでテープを切った。前人未到の1時間16分台(39秒)で、チームも5時間24分45秒の往路区間新記録。柏原は「時計もあまり見なかったし、76分台は意識していなかった」とそっけない。それでも表彰台で、何度も白い歯を輝かせた。

 山が少年を大人に変えた。1年生で衝撃的なデビューを飾ると、2年で記録更新。だが、首位明大を抜いた際、相手選手の顔を何度も見たことを「にらんだ」「嫌みだ」とネットへ書き込まれた。大学3年の夏。周囲の目が気になり、部屋に閉じこもった。右ひざの故障も重なり、走れなくなった。酒井監督の計らいで東洋大を離れ、母校の合宿に参加。高校生の隣で「ハー、ハー」と泥にまみれ、ゼロからはい上がった。

 そして昨年3月11日の東日本大震災。故郷福島のため、都内での復興支援活動に参加した。目立つのは大嫌い。それでも自らの知名度を認識し、「僕が何かやることで被災地のためになるのなら」。苦手なメディア取材も積極的に受けた。この日見せた力強い走りの後には「1時間ちょっとの苦しさなんて、震災で苦しんでいる人に比べたら大したことない」。走りも態度も立派な「大人」だった。

 4度の5区で登った高さは3456メートル。走行距離93・6キロ、合計16人を抜いた。だが、そんな記録よりも記憶に残る。2位早大とは5分7秒差。1988年(6分9秒)以来の大差で、総合優勝はもう目前だ。柏原は「ゴールするまで気を抜かない。でも優勝したら泣くのかな、泣くんじゃないかな」。4年連続区間賞。山を完全踏破した男の爽快感があふれていた。【佐藤隆志】

 ◆2人目快挙

 柏原が達成した4年連続区間賞は史上8人目。同一区間に限れば5区を74年から4度制して「山のスペシャリスト」と呼ばれた大久保初男(大東大)以来2人目の快挙。区間変更された06年以降の5区で首位が交代しなかったのは初、過去6大会は全て往路の最終区間で逆転劇があった。