来年1月2、3日に行われる東京箱根間往復大学駅伝(箱根駅伝)に出場する21チームの区間エントリーが29日に決まった。注目は学連選抜の補欠に名を連ねた近藤秀一(1年)。東大生として05年大会の松本翔以来11年ぶりに箱根路を駆ける可能性がある。2連覇を狙う青学大は、前回総合優勝の立役者となった主将の神野大地(4年)を2大会連続で山登り5区に起用した。

 まるで箱根路を逆側から登ってきたような陸上人生。それが近藤だ。「この大学にいたら、好きじゃなかったらやる必要ないですよね」。日本の最高学府の東大で走る理由は、とてもシンプルだった。箱根の先に世界で活躍を目指す選手が多いなか、背景が違う。

 出身がまさに「逆側」。ゴールの芦ノ湖の先、山を下った裾野に広がる静岡県函南町で鍛えられた。転機は地元の韮山高2年の時。全国大会に届かなかった進学校の長距離ランナーは記録会で5000メートル14分27秒10で走り、駅伝強豪大学の目に留まった。「ただ、大学で勉強もしっかりしたかった」。ぼんやりと浮かんだ箱根駅伝の目標に、関東の大学に対象を絞ると、東大への受験が決まった。

 初年度不合格は想定内だったが、合格点までは1点。「だったら、浪人中にベストを出そう」と塾に通わない独自の浪人生活が始まった。ただ真っ先にしたのは車の免許を取ること。「すぐに勉強をする人が多いけど、ピークが夏くらいにきてしまう人が多い」と、あえてゆとりを持って翌年を目指した。もちろん、朝と夕方の走りは継続した。

 今年4月、晴れて赤門をくぐっても、勉強と同じように自分で練習のペースを考える東大陸上運動部の水があった。「コーチはいません。自分でプランを練る。自分が実験台ですね」。ゆとりを持った受験勉強と同じで「きっちり逆算して毎日やることを決めるのは性に合わない」と、走りの感覚を重視して日ごとのメニューを決めている。

 文武両道が決まり文句のように言われるが、「いまはほぼ陸上」で「試験がまずい」と苦笑する。学連選抜のタイム順では11番目で、走れない可能性もあるが、「受験の時に1点足りなかったのと同じで、そうしたらまた新たな目標ができるかも」。決して後ろ向きにはならない。誰にも負けないくらい陸上が好きなのだから。【阿部健吾】

 ◆近藤秀一(こんどう・しゅういち) 1995年(平7)7月27日、静岡県生まれ。函南中-韮山高-東大。高校時代は県大会での区間賞など。自己記録は5000メートル14分21秒14、1万メートル30分12秒65。あこがれは同郷のサッカー日本代表DF内田篤人。171センチ、54キロ。