2年前、決勝進出の夢は4歩目で散った。今年は1歩目の時点で遠ざかった。

陸上男子100メートルで決勝進出を期待されたサニブラウン・ハキーム(20=フロリダ大)は号砲の合図で、完全に1テンポ出遅れた。優勝候補クリスチャン・コールマン(米国)ら強豪だらけの世界選手権の準決勝では致命的なミスだった。

そこから本来の走りで懸命な追い上げを見せたが、10秒15(向かい風0・3)の5着。自動的に決勝へ進める2着のアーロン・ブラウン(カナダ)とは100分の3秒差。着順でなく、タイムで上がるラインにも0秒04届かなかった。サニブラウンはフィニッシュ後、電光掲示板で結果を確認すると、腰に手を当てて、首を振った。

レース後に姿を見せた取材エリアでは、気持ちを切り替えようと努めながら、出遅れた場面を振り返った。

リアクションタイムは0秒206。「走り自体は全然よかったのですけど、スタートの時に全然、音は聞こえなくて。普通に『鳴ったかな』と考えてしまうぐらい。体として反応をしていれば、問題なかったのですけど、引けをとってしまい、差がついてしまった。スタートの差がもったいなかった」。

完全に不完全燃焼だった。これが世界大会の魔物なのか。号砲直前の「セット」までははっきりと聞こえていた。しかし、それから号砲を伝えるスターティングブロックのマイクからは雑音が聞こえるような感覚で、スタートを告げる合図は聞こえづらかったという。「何が起こっているか分からなかった。取りあえず走るという感じ。横が動いたから『あっ』という感じで」と回想した。

2年前は4歩目でバランスを崩し、100メートルは決勝進出を逃した。さらなる成長を上積みした今年は「優勝をする勢いで」と手応えを感じていたが、またも実力を発揮できない形で終幕した。

ただ、まだ男子400メートルリレーが残ってる。アンカーで起用される予定だ。「日本の短距離のレベルも上がり、皆さんの期待度も上がっている。そこでプレッシャーに負けず、しっかり金メダルを取って帰れれば」。起用はアンカーの予定。今度こそ視界には誰の背中も見えない形で、フィニッシュラインを越える。