選手の夢を奪うわけにはいかない-。華々しい舞台の陰には、支えている人がいる。連載「コロナ禍の箱根」の第4回は開催決定に至るまでの裏側に迫る。箱根駅伝を主催する関東学生陸上競技連盟(関東学連)は、主に大学生で運営されている。山田幸輝幹事長(神奈川大4年)を筆頭に学生たちは、中止を避けられるように、奔走を続けていた。【取材・構成=上田悠太】

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秋ごろは最悪の結末も考えた。山田幹事長は振り返る。「もうできないかもしれない。中止の覚悟もしていた」。4年生は3月に大学を卒業し、その前にはテストもある。延期という選択肢はなかった。

強引な開催はできない。ただ、多くのランナーにとっての夢舞台をつぶすわけにもいかない。関東学連の中では、ある意識が共有されていた。「中止の理由は(コロナ)1つでいい。できるようになることを積み重ねよう」。

取り組んだ1つは、中継所などコースにある自治体の理解を得ること。例年は回っていない区や市の役所にも足を運び、感染拡大防止策などを説明した。順守しないといけない日本陸連のロードレース開催の条件には「自治体から大会開催が認められる」ことが含まれる。自治体が1つでも反対をすれば、大会はできない。出向いた先で、戸惑われることも少なくなかったが、納得をしてもらえた。一見、何の変哲もないようにも思われるかもしれない。しかし、クリアしておかないと、中止に直結する波紋となりかねない。縁の下の極めて重要な仕事だった。出雲駅伝が中止となったのは、主催でもある出雲市が判断した経緯もある。

大会へ向けては、感染症を専門とするドクター3人を含むコロナ対策の委員会を立ち上げ、準備を進めてきた。本番は胴上げ、円陣、中継所でタスキを受け渡す際の声かけも禁止。例年より約200人多い約1800人の走路員をコースに配置し、沿道での応援を控えるように求めるようにする。他にも多くの対策を施すが、今も事務所にはメールや電話で、否定的な声が届くのは事実。山田幹事長は「厳しい意見も受け止めながら、少しでも多くの方に納得いただけるように説明を続けています」。

人知れぬ努力と苦心を経て、今に至る。まだ21歳。背負うものの大きさに、心がきつくなったこともある。でも「気持ちが折れて大会をできなかったら、学生の夢を終わらせてしまう」。使命感を貫き、やり遂げた。走る選手だけではない。2日後に鳴る、その号砲には、いろんな人の思いが詰まる。