18日に閉幕した陸上の日本室内選手権は、東京五輪を目指す選手たちの好記録連発で盛り上がった。

100メートルを中心に活躍する桐生祥秀(25=日本生命)が出場したのは「男子60メートル」。会場はコンサートなどが行われる大阪城ホールだった。そこには走り幅跳びや、3段跳びを行う砂場も設置されている。「どうやって砂場を!?」という疑問から、室内陸上の裏側を取材した。

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多目的アリーナに砂場…。初めて取材した室内陸上の現場は、元ラガーマンの記者にとって不思議な光景だった。「どうやって設置しているのか…」。会場で問い合わせると、大阪陸上協会で競技部技術部長を務める松川良紀さん(64)が取材に対応してくれた。

〈Q1〉砂場はどうやって作る? 

松川さんに促され、会場をよく見ると分かった。アリーナの従来の床に対し、選手が踏みしめる地面は24センチ高くなっていた。

「そもそもこのフィールドは地面から24センチの高さを出しているので、砂場の部分には、そこの高低差を利用して砂を入れます」

〈Q2〉砂はどこから持ってくる? 

松川さんが指で指したのは、大阪城ホールの倉庫がある方向。そこに全ての用具が保管されているという。「普段はコンサートなどの準備をする業者さんが大会がある前に持ち出し、設営してくれています」。まずはフレームを組み、その上にボード(板)を乗せる。1区画は基本的に縦2メートル40センチ、横1メートル80センチ。桐生らが走った直線レーン部分は横が2メートル44センチになるという。それをパズルのように組み合わせ、1つのフィールドができる。きめ細かな区画図は、1985年から引き継がれている。

〈Q3〉設営にはどれぐらいの時間がかかる? 

アリーナを室内陸上のフィールドに仕上げるには、約13時間を要する。松川さんは「撤収の方が早く終わりますね」。設置時は細かな距離の確認等があり、繊細に作業が進められる。

〈Q4〉屋外と室内。選手に違いは? 

この疑問は出場選手のコメントが解決してくれた。男子走り幅跳びで22年ぶりに室内日本記録を樹立した橋岡優輝(22=日大)は「いつも(屋外)と違って跳ねる感覚でスライドが伸びていた」としながら「自分の中で距離感に少しずれがあった」と難しさを感じていた様子。踏みしめる地面には空洞があり、その跳ね返りは屋外と違いがある。2位の津波響樹(23=大塚製薬)の場合は、会場の大きさの問題により、普段53メートルという助走が44メートルに縮まった。一方で「うまく乗り込めたら、ちゃんと(地面から)反発をもらえる」と口にした。

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取材を通じて、実感したことがある。今大会は当初2月に予定されていたが、新型コロナウイルスの影響で延期となっていた。走り高跳びで優勝した戸辺直人(28=JAL)は「技術的なものを確認できるのがメリット」と力を込めた。

選手たちはウエートトレーニング、スピード強化など、オフに磨いたものを、春からの本格的な実戦につなげていく移行期にある。風がなく天候にも左右されない室内が、重要な場となっているのは間違いない。

普段は数学の教師という松川さんは「冬の練習の成果を確認し、春以降へ弾みになる大会になるとうれしいですよね」とほほえんでいた。多くの人に支えられ、大会は幕を下ろした。【松本航】