信条は「心で走る」。それが創価大の日本人エース、嶋津雄大(4年)の原動力になっている。「自分の強みは応援の力を心のエネルギーに変えて走れること」。初出場で最終10区を走った20年の箱根。極度の緊張の中でスタートしたが、大観衆の声援に背中を押されて区間新記録の快走。それが大きな転機になった。

21年の箱根は4区。2番手から首位の東海大を逆転してトップに立ち、後続に1分42秒差をつけて初の往路優勝の流れをつくった。「箱根では毎回、自分に使命が待ち受けている。3度目はどうなるか。怖いけど、楽しみ。どの区間でも走れるようにしたい」と、最後の大舞台も自分に期待している。

もともと「網膜色素変性症」で視力が弱い。ハンディを乗り越えた「心の走り」には予想外の反響があった。全国から箱いっぱいのファンレターが届いた。「一番多かったのが、自分も病を抱えているが、嶋津さんの走りを見て勇気をもらったという内容。応援を力に変えた走りが、見ている方にも何かを伝えられると実感した」。

暗くなると周りがよく見えない。夜のレースは照明があるが、サブトラックは薄暗い。アップに苦心していたが、最近は室内トラックの使用を認められたり、ライトを胸に着けて走る特別許可も出た。「箱根の走りを通して、多くの人に自分の病を理解していただき、支えてもらっている」。そんな周囲への感謝の気持ちもエネルギーに変える。

反発力の強い厚底シューズが主流だが、従来の薄底を愛用している。11月の競技会では1万メートルで自己ベストを約20秒も更新。トラックでスピード強化に取り組んだ成果をきっちりと出した。「自分は薄底で結果を出すことができている。一番走れるシューズで走っているだけです」と、周囲に流されることはない。

2年の春から夏に休学したため、卒業は1年先になる。目の病気は進行する可能性もあるが、卒業後も実業団で陸上を続ける決意だ。「オリンピックも全力で目指しますが、自分の場合は目の状態によってはパラリンピックもある。それも頭の片隅に入れて走っていきたい」。箱根最後の『心の走り』を、将来のさらに大きな夢につなげる。【首藤正徳】

◆嶋津雄大(しまづ・ゆうだい)2000年(平12)3月28日、東京都町田市生まれ。町田市立堺中入学後に陸上長距離を始め、都立若葉総合高時代に都駅伝1区で2年連続区間賞。青梅マラソン優勝。1万メートルの自己ベストは28分14秒23。趣味は音楽、小説。文学部人間学科4年。170センチ、55キロ。

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