熱い冬の風物詩が近づいてきた。日刊スポーツでは「戦国箱根のツボ」と題し、全6回の連載をスタートします。第1回は創部11年目で優勝候補となった「東京国際大の強さの秘密」。なぜ急激なスピードで常連校に割って入るまでになったのか。OBで今夏の東京オリンピックで男子陸上1万メートルに出場した伊藤達彦(23=ホンダ)が、その一端を明かした。

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東京国際大は今年10月、出雲駅伝で史上初の初出場初優勝を達成した。それこそが原動力だったと伊藤は振り返る。「歴史がないので、何をしても初出場、初優勝。自分たちの代も箱根駅伝でシード権を初めて獲得した。それがモチベーションになっていました」。常連校のような「伝統」はない。それを前向きに捉える強さと柔軟さがある。

11年の創部当時から率いる大志田秀次監督(59)は、創部5年目の15年、青学大と東洋大に頼み、選手数人とともに泊まり込みで寮生活を体験。他大学の良いところは、積極的に取り入れた。伊藤も大学1年の頃から行っていた「目標管理シート」は、青学大が続けていたもの。1カ月の目標、1年の目標と細かく決めて、達成度を振り返る反省会を行っていたという。

「時代の流れというか、新しいことをどんどん取り入れていました」。外部コーチも毎年のように招聘(しょうへい)。今年は、プロ野球選手も数多く指導するスプリントコーチの秋本真吾氏を呼び、フォーム改善やトレーニング法を教わった。ずっと受け継がれてきた練習法があるわけではない。「いいとこ取り」で選手たちはさまざまな上達法を知り、自分に合うものを選んで取り入れることができる。

スポーツ振興に力を注ぐ大学側のサポートも手厚い。伊藤が大学2年の頃には駅伝部専用のトレーニングセンターができ、土だったクロスカントリーコースは疲労が軽減されるウッドチップに変わった。

自主性を重んじる方針と整った環境の中、伊藤もどんどん力をつけた。「もう1歩先まで突き詰めて競技と向き合うこと、試合前の練習の立て方だったり、すべてを大学で学びました。変なプレッシャーもなく、伸び伸びとできました」。常連校への人気は、やる気に変えてきた。「並走していると、知名度のある選手への応援を感じて、逆に反骨心になりました」。伝統がないことこそが強み。快挙の期待がかかる箱根路でも、東京国際大は伸び伸びと駆け抜ける。【磯綾乃】

◆伊藤達彦(いとう・たつひこ)1998年(平10)3月23日生まれ、静岡・浜松市出身。浜松市立北部中から浜松商高に進み、東京国際大へ。箱根駅伝は2年時から3年連続で2区を務め、4年時には日本人歴代2位の1時間6分18秒をマーク。20年にHondaに入社し、同12月の日本選手権では1万メートルで当時日本歴代2位の27分25秒73を記録し、自己ベストを更新。今夏の東京オリンピックの男子1万メートルに出場し、29分1秒31で22位だった。

◆東京国際大学 1965年(昭40)、国際商科大学として金子泰藏氏が創設。創立当初は商学部のみの単科大学だったが、86年に東京国際大学に校名変更。現在は商学部、経済学部、言語コミュニケーション学部など6学部を有する私立大学。埼玉・川越市や坂戸市などにキャンパスがある。

【戦国箱根のツボ】(2)創価大・嶋津雄大、目の病気抱え「心の走り」>