難病と闘いながら、4度目の箱根駅伝へ-。3年連続で出走し、前回総合2位に貢献した順大・西沢侑真主将(4年)は、「潰瘍性大腸炎」の持病を抱えている。7月に死去した安倍晋三元首相も発症し、国の指定難病にも定められている。不屈の主将は、07年以来、16年ぶりの総合優勝へ導く覚悟に満ちている。

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3年生の21年夏。西沢は医師と向き合っていた。全身麻酔で意識が判然としない中、聞き慣れない病名を告げられた。「潰瘍性大腸炎です」。難病と知り、驚いた。気がつくと、自ら尋ねていた。「もう走れないってことですか?」。

2年生の秋ごろから、血便や急な腹痛に襲われ始めた。競技に支障をきたすほどではなく、そのまま練習を継続し、箱根駅伝にも出走した。だが、一向に回復をみない。症状が半年以上続いてから受診し、病と判明した。「深刻だと思っていなかったので、『マジか』って驚いて」。落ち込んだが、幸いにも症状は軽かった。練習量を調整し、毎食後に薬を飲みながら、陸上を続けることになった。

順大で箱根を走ると、運命づけられていたのかもしれない。6歳上の兄卓弥さんは、順大で4年連続で箱根路を出走。西沢も中学生の頃、沿道で声援を送った。兄は4年時に1区15位。「その時に『悔しい』と言っていた。それを晴らしたいと思いました」。入学当初から、4年連続で箱根を走ると誓い、口酸っぱく「総合優勝」と言ってきた。宣言通り、現4年生では唯一、3年連続で出走。長門俊介監督は「彼は自分にも、仲間にも厳しさがある」とうなずく。昨夏の東京五輪に出場した三浦龍司(3年)も「精神面でも、競技面でも柱の存在」と敬っている。

そんな信頼の厚い主将に引き起こされた病。同学年の仲間は特別に手を差し伸べて…くれたわけではなかった。「心配は一切されなかったですね」。笑って回顧する。でも、それが良かった。「気を使ってもらうのは好きじゃなくて」。以前と変わらず、練習では競い合い、普段はたわいもない話をした。“変に気を使わない”という優しさが、心地よかった。

今も完治はしていない。2カ月に1度、担当医のもとへ通っている。日々の投薬治療も続く。自分の走りが、勇気を与えるかは分からない。でも当事者として、伝えられることがあると思う。「絶対になくなる病気ではないですが、少しでも頑張ろうと思ってもらえる走りをしたいです」。支えてくれた人への感謝と、病と闘う人へのエールと。その思いが、西沢を突き動かしている。【藤塚大輔】

◆西沢侑真(にしざわ・ゆうま)2000年(平12)9月19日、静岡県浜松市生まれ。浜松日体高2年時に全国高校駅伝6区7位。箱根駅伝は1年時8区9位、2年時8区10位、3年時7区7位。今年11月の全日本大学駅伝は6区2位。ハーフマラソン自己ベスト1時間2分35秒。176センチ、57キロ。

◆潰瘍性大腸炎 国が定めた「指定難病」の1つ。大腸の粘膜に炎症が起きて潰瘍などができる病気で、腹痛、下痢などの症状がある。症状が出る活動期と、症状を感じない寛解期を慢性的に繰り返す。原因は分かっていないが、免疫異常が関係しているとみられている。陸上界では、16年リオ五輪400メートルリレー銀メダルの桐生祥秀が大学2年時に発症。7月に死去した安倍晋三元首相も持病として抱えていた。