<長野マラソン>◇21日◇長野運動公園スタート→長野オリンピックスタジアムゴールの42・195キロ

 変幻自在のレース運びで川内優輝(26=埼玉県庁)が、15回目となる大会で史上初の日本人男子優勝を成し遂げた。1度にも満たない極寒、降雪下のスタートにもレース展開を読み、40キロ手前でソコロフ(ロシア)を一気に突き放し2時間14分27秒で勝利。ペースメーカー不在の「仮想世界陸上」と位置づけたレースで、マラソン8勝目を挙げた。豊富な勝ちパターンを備えた公務員ランナーが、代表選出確実な今夏世界陸上モスクワ大会に着々と進む。

 その時、川内は「ヨッシャーッ」と心の中で叫んだという。前夜に食した大好物の大盛りカレー2杯が夢に出てきたからではない。未明の起床時に、外は銀世界。長野地方気象台の統計で61年以降「積雪最遅日」となった早朝、川内のテンションは最高潮に達した。「寒い方が好き。新陳代謝が人よりいいし3年前の東京もそうだった」。自己ベストを一気に約5分更新した験の良さを味方にした。

 外国勢が防寒対策に重装備する中、川内はいつものランニング姿。ワセリンを塗り、2枚の手袋、アームウオーマー、帽子をかぶり、それなりに施したが、外国勢に比べれば「軽装」だ。ただ、レースを読む洞察力は重装備だった。

 気温0・4度の降雪下、スタートから飛び出した。ペースメーカー不在で悪条件。「どうせ遅いペースだろう、どうせ先行してもつぶれるだろう、集団でラスト勝負だろう…と心に油断が生まれる。だから」と、できる限りペースを上げた。読み通りに、12キロ過ぎで先頭は2人。「予想外のことが起こると人間の体は動かなくなる。後ろは総崩れ。心理的に有利になった」と振り返った。

 あとは仕掛けどころを探るだけ。30キロ付近で一騎打ちの相手がソコロフに代わっても「ラスト2・195キロの一騎打ちになれば間違いなく勝てる自信はあった」。言葉通り40キロ手前の給水所で一気にギアを上げ、楽々と振り切った。

 驚異のペースでマラソンは23度目。辛酸も味わいながら「単独走も集団走も、ハイペースもスローペースにも、いろいろな展開で走ってきた。どんな状況でも対応できるタフな体になったなと思う」。五輪や世界選手権ではペースメーカー不在で、気象や路面状況も予想がつかない。万能型の川内は「ペースメーカーなしの北海道、シドニー、長野で勝てたのが大きい」と強調した。その昨年8月の北海道から8カ月間で9戦7勝。テロに見舞われたボストンで暗い影を落としたかにみえたマラソン界に光明を当て、そして川内は自ら語る「実績に裏付けられた自信」を胸に刻んだ。【渡辺佳彦】