オリンピック(五輪)の観客数上限が50%以内1万人以下と決まり、事前合宿のための各国選手来日も始まった。

4年に1回のスポーツの祭典、オリンピック開幕まで1カ月を切った。開会式の前から行われるソフトボールやサッカーを考えれば、本番まで3週間と少ししかない。

ところが、一向に五輪ムードは盛り上がらない。東京都の新型コロナ新規感染者数は高止まりどころかリバウンド状態。解除したばかりの緊急事態宣言が再び発出されそうな勢いだ。水際対策の不手際などでバブル方式の穴が露呈。政府や組織委員会は「安心安全」を連呼しても、国民の「不安」は広がるばかりだ。

国民全体の姿勢が、五輪に対して前向きにはなっていない。メディアの五輪報道は増えてきたとはいえ、まだ手探り状態。読者や視聴者の気持ちが、五輪へと向いていないからだ。

いつもの五輪なら、1カ月前といえば「壮行会」ラッシュがある。代表選手の出身自治体や卒業高校、大学、所属企業などによる激励会や壮行会が毎日のように行われる。多くの人が集まって、それがメディアによって報じられる。

練習の合間をぬって壮行会に出席する選手は多額の「激励金」を受けとる。中には、複数の壮行会でJOCの金メダル報償金(500万円)を上回る金額を手にする選手もいる。学校や企業のイメージも、五輪選手輩出でアップ。東京大会は選手の数も増大することで、空前の「壮行会」ラッシュが予想されていた。

18年の平昌冬季五輪前には「五輪が宣言に利用されている」と、JOCが大学や企業の壮行会を公開禁止にした。東京五輪を見据えた厳しい処置だったが、実際には企業などの壮行会は数えるほど。五輪選手への積極的な応援が、イメージダウンにもつながりかねないという判断だろう。

資金的に恵まれない選手たちは、貴重な収入の機会を失う。五輪選手を抱えてきた大学や企業のアピールの場もなくなる。マイナーと言われる五輪競技だからこそ「支える」人と「支えられる」選手とをつなぐ壮行会は重要。多くの人が選手の顔や、競技を知ることにもつながる。そして、その積み重ねで「五輪ムード」が盛り上がる。

五輪取材でも、壮行会は大切だった。選手の家族や恩師、関係者と話ができる貴重な機会。全国各地で行われるパーティーを複数回ることも常だった。ところが、今は自宅や会社からパソコン画面を通してリモート取材。選手の緊張感や興奮から開幕が近いことを知る機会は少なくなった。メディアが盛り上がらないのも、そのためだろう。

東京駅前など各地に置かれているカウントダウンボード。その数字は、毎日1ずつ減っていく。一度は365が足されたが、もう増えることはない。「近づけば盛り上がるさ」と思ってきたが、先は見えない。世間には、近づいたからこその不安も増大している。

27日、ハンドボール男子の代表14人が発表された。TikTokでフォロワー数240万の土井杏利主将は「やってよかった、と思える大会になるように頑張る」とコメントした。本当に「やってよかった」と思えるかは、五輪を迎える世間のムードにもよる。

壮行会が減少して、人々の気持ちは前向きになりにくい。ならば、せめて後ろ向きにならないようにとは思う。逆風がせめて無風になれば。選手の頑張りで追い風にもなる。新型コロナ収束が最優先だが、それは難しい。だとしたら、どう前向きに大会を迎える雰囲気が作れるか。国民の気持ちをリセットするには、政府や東京都、組織委の強い発信しかないのだが。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)