日本男子テニス界のエース錦織圭(27=日清食品)が、右手首の腱(けん)の裂傷で、8月16日に、昨年4強入りした全米オープンを含む今季すべての大会を欠場すると発表した。けがを負ったのは「尺側手根伸筋腱」という部位だった。

 錦織のマネジメント会社「IMG」の公式発表では、現在のところ手術はしない方針だが、再診で今後の予定を決めるとしている。けがの詳細は不明だが、1日に錦織は自身のスマホアプリを更新し、動画メッセージで「昨日(8月30日)、ドクターに診てもらって、すごく良くなっているとのことでした」と、順調な回復ぶりをアピールした。


8月5日、シティ・オープンに出場した錦織圭(撮影・PIKO)
8月5日、シティ・オープンに出場した錦織圭(撮影・PIKO)

■「金属疲労のようなもの」

 ファンの方々にとって最も関心が高いのが、彼がいつ戻ってこられるかだろう。その点を含めて、整形外科が専門で、聖マリアンナ医大名誉教授も務める別府諸兄(もろえ)・日本テニス協会医事委員長に話を聞いた。別府委員長は、錦織がけがした箇所の磁気共鳴画像装置(MRI)の診断画像を見てはいないので、あくまで一般的な見解となる。

 手首の動きは、小指側に曲げるのを「尺屈(しゃっくつ)」、親指側に曲げるのを「橈屈(とうくつ)」という。尺側手根伸筋は、肘のあたりから小指側にかけてある筋肉で、主に尺屈で使用する。腱は、尺側手根伸筋と手首の骨を結んでいる。

 また、手のひらを床に対して直角にし、前腕で手のひらを上に向ける動きが「回外」、下に向けるのが「回内」と言われ、テニスのサーブやフォアは、主に「回外」、「回内」、「尺屈」、「橈屈」の4つの組み合わせの動きで成り立っている。

 サーブは、前腕が回内から回外へ、手首は尺屈の動きで、フォアは回外から回内、橈屈の動きだ。錦織がサーブの時に受傷したというのは、尺屈の動きで、ゆえに尺側手根伸筋腱を痛めたということになる。別府委員長は「テニス選手の手首や腕の動きは、非常に無理がかかっている。サーブとフォアは逆の動きで、オーバーユースになると、耐えられなくなり、けがにつながる。いわゆる金属疲労のようなもの」という。

 別府委員長によると、尺側手根伸筋腱がどのぐらい痛んだか、自ら確認する方法があるという。両手の手のひらを体の前で合わせ、合掌のポーズを取る。その合わせた両手を、小指側に曲げていくと、どの当たりで痛みがあるか、曲がらなくなるかで判断できるという。


5月、マドリード・オープン準々決勝のジョコビッチ戦の試合前練習で痛めた右手首を気にする錦織。その後試合を棄権
5月、マドリード・オープン準々決勝のジョコビッチ戦の試合前練習で痛めた右手首を気にする錦織。その後試合を棄権

■「半年あれば大丈夫かも」

 錦織は現在ギプスをしているが、これは手術をしない保存療法だ。別府委員長は「完全断裂はしていないのでは。もししていれば、MRIを取った時にすぐに分かるので、保存療法という選択はないと思う」と話す。裂傷なり部分断裂であれば、「一般の人は保存療法で4~6週間で治り、そこから2~3週間のリハビリを行う」ことになる。これはあくまで一般の人が、手首を使うハシやペンなどで、支障なく生活できるレベルへの回復期間だ。

 一般の人なら短くて1カ月半、長くて2カ月強で復帰だが、テニス選手となると手首の使用頻度が桁違い。球を打つ衝撃なども考えれば、別府委員長は「半年もあれば大丈夫かもしれない」という。球を打つ感触や試合勘を考えると、本当にツアーで支障なくプレーできるのは、やはり半年から9カ月ほどかかるのかもしれない。

 錦織は09年に右ひじの内視鏡手術を受け、約1年、ツアーから遠ざかった。世界ランキングは消滅し、そのどん底から、14年の全米で準優勝、世界4位にまで上り詰めた。年齢は違うが、その不屈の闘志は今でも健在だと信じる。また、このケガを糧に再びよみがえる錦織を誰もが待っている。【吉松忠弘】


 ◆吉松忠弘(よしまつ・ただひろ) スキージャーナル社を経て87年に日刊スポーツ新聞社に。五輪競技として、テニス、体操、卓球、フィギュアスケートなどを担当。現在は錦織圭番として、老骨にむち打ち駆け回る日々。