フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ最終第6戦フランス杯が23日、グルノーブルで開幕する。注目は第4戦NHK杯を制し、4位以上でGPファイナル(12月、カナダ・バンクーバー)進出が確定する女子の紀平梨花(16)。シニア1年目の新星が練習に励む関大では、4年ぶりに現役復帰した高橋大輔(32=ともに関大KFSC)、女子の宮原知子(20=関大)らが切磋琢磨(せっさたくま)する。その一大拠点について、意外と知らない? 疑問に迫った。【取材・構成=松本航】

●「関大KFSC」って一体? 

新聞紙上などでよく見かける「関大KFSC」は、「関西大学カイザーズ・フィギュアスケート・クラブ」の略称だ。「カイザーズ」とは関大体育会全体のチームネームで、ドイツやロシアなどで用いられた皇帝の称号「カイザー」と重ね合わせている。04年4月に誕生したシンボルマークは、フィギュア選手のウエアの胸にも記されている。

「関大KFSC」は16年4月、特定非営利活動法人(NPO法人)として誕生。新しい取り組みは関大やその併設校に通う選手だけでなく、多くのスケーターの才能を伸ばす一因となった。

トリノ五輪で荒川静香が金メダルをつかんだ06年の7月、総工費約8億円をかけた「関西大学たかつきアイスアリーナ(以下、関大IA)」が大阪・高槻市に完成。当時、関西ではリンクの閉鎖が相次ぎ、多くのスケーターが関大IAに集まるようになった。

一方で悩ましい問題も生まれた。例えば周辺の高校に通うが、その高校にスケート部がない選手。選手登録における所属先は、日本スケート連盟の加盟団体に属している必要があり、その登録として、在籍する高校を選択することができなかった。

高橋大輔、織田信成ら憧れの先輩たちと同じ関大IAで練習してはいるものの、所属表記は他のスケートクラブ。選手からも「関大で練習しているんだから、ここを所属先にしたい」という声があったという。そのような経緯があり「関大KFSC」は誕生した。

主目的は「フィギュアスケートの競技を通じて会員相互の親睦を図り、フィギュアスケートの普及・発展に寄与すること」。地域貢献なども大切にし、その上で世界に羽ばたく選手を応援する思いがある。他のスケートクラブとは違い、あくまでも連盟の試合に出るための組織であるため、各コーチとの指導契約は個々で行われる。

入会の年齢制限はなし。条件はフィギュアスケートを競技スポーツとして捉え、トップアスリートを目指し、インストラクター(コーチ)による指導を受ける選手だ。現在の会員数は22人。「関大KFSC」によって進路選択時の引き出しが増えるなど、スケーターにとっては好影響が多いと言えるだろう。

●所属表記はどう使い分けている? 

紀平、高橋らの所属は「関大KFSC」。2人はともに関大IAを拠点に練習する一方、師事するコーチは異なっている。加えてGPファイナル進出を決めている女子の宮原は「関大」、女優業とスケートを両立する本田望結(14)は「大阪・関大中」…。関大によると、所属表記は以下のように使い分けている。

◆関大アイススケート部所属学生=「関大」(宮原知子など)

◆関大併設中学、高校スケート部所属生徒=「関大中」「関大高」(本田望結など)

◆関大または併設校に学籍を置かず、関大IAを拠点に活動する選手=「関大KFSC」(高橋大輔、ネット高校「N高」で学ぶ紀平梨花、京都両洋高で学ぶ白岩優奈など)

また、多くの小学生スケーターなどは、関大IAを拠点としながらも所属に「関大」が入らないことも多い。大会プログラムなどでは「京都醍醐フィギュアスケートクラブ(京都醍醐ク)」「大阪スケート倶楽部(大阪ク)」といった所属もよく見かける。どこを所属とするかは本人らの意思によるもので、選択は自由だという。

●指導体制はどうなっている? 

関大IAでの指導体制は大きく3つに分かれ、織田信成氏の母でもある憲子コーチ(71)が中心の「織田チーム」、本田武史(37)長光歌子(67)両コーチが中心の「本田(長光)チーム」、浜田美栄コーチ(59)が中心の「浜田チーム」がある。各チーム4人のアシスタントインストラクター(コーチ)と、トレーニング、バレエ、ダンスなどのコーチで構成。選手の定員はそれぞれ35人で、現在は約100人が練習を積んでいる。最年少は5歳で、最年長は高橋の32歳だ。

関大IAでの練習枠は、大体1時間半~2時間を1コマとして割り当てられる。その振り分けは「選手権クラス(強化選手ほか)」「ジュニア5級以上」「ジュニア4級以下」「ジュニア全体」といったレベル別から、3チームそれぞれに割り振られる練習など、多岐にわたっている。

そのため、選手は他チームからも多くの刺激を得る。7月の公開練習時には「浜田チーム」の宮原が、「本田(長光)チーム」の高橋の存在についてこう明かしていた。

「曲かけ(曲をかけての通し練習)を始めて、踊り出した瞬間に世界が変わるのを練習でも感じます。『ぜひ見たいな』と思って、いつも見ています」

選手、コーチ、関係者の努力はもちろん、日本有数の施設と、それを生かすシステムが重なり合う関大。有力選手が集い、育つサイクルは今後も続きそうだ。

◆関大IAを拠点に練習する主な現役選手

高橋大輔(32=関大KFSC、本田・長光チーム)

宮原知子(20=関大、浜田チーム)

白岩優奈(16=関大KFSC、浜田チーム)

紀平梨花(16=関大KFSC、浜田チーム)

本田望結(14=大阪・関大中、浜田チーム)

本田紗来(11=京都醍醐ク、浜田チーム)

(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)