8月25日までスイスで行われていたバドミントン世界選手権の女子シングルスで、奥原希望(24=太陽ホールディングス)は決勝でインドのプサルラに完敗して準優勝に終わった。「素晴らしい舞台で、ふがいない試合をして申し訳ない」と号泣したが、準決勝までの戦いぶりで確かな手応えをつかんだように思えた。

今年1月にプロ転向。目の前の1勝も大事だが、常に東京オリンピック(五輪)を見据え「完成形」を目指し、自分のスタイルを研究し続けている。

そんな中、今年5月にミズノ社と研究を重ねた新しいラケット「ALTIUS 01 FEEL」が完成した。15年12月に契約を結んでから約4年。1年の半分以上を遠征で海外で過ごす奥原と、テストをする時間もなかなか取れなかったというが、ようやく納得のいく製品が出来上がった。

開発に携わった同社の三宅達也氏(31)は「ラケットは靴とかと違って本人にしか分からない。時間がない中で、要求しているものがうまく作れず、4年間で500本近くは作ったと思う」と苦労を明かした。

細かいデータをたくさん出したこともあったが、本人の感覚と違う時も。「勝ってくれているのであればいいのかな」と結論付けたこともあった。

同社は20年ほど前からバドミントンのラケットは作っていなかった。今回の契約で、昔作っていた職人が復活。ゴルフクラブに携わる職人が軽量でぶれにくいシャフトを作り、野球の道具に携わる職人がヘルメットで使用している素材を使ってコーティングした。

さまざまなスポーツの用具を扱っているミズノならではの技術が融合したラケット。見た目も性能にもこだわる奥原に最適なものを提供することができた自負があるという。

17年までは球を“つかみにいく”ことを中心に作っていたが、ブレーキがかかり、つかみすぎではないかと考え、奥原に「球持ちも大事だが、もう少しはじくのもいいのでは」と提案。少ない力でもシャトルが飛ぶ機能を意識した。さらに開発を続け、インパクトの直前に手首を返す「ねじれ」の動きがシャトルにしっかりと伝わるようになり、今回の最新型にたどりついた。

奥原は「シャトルをつかんでコントロールする、ということをテーマにやってもらった。つかむ感覚以上に、はじいて鋭い球がいくように作ってもらった。プレーの幅が広がっているのを実感している」と大きなラリーを得意としていた奥原の攻撃のバリエーションが広がった。

気圧の変化でもストリングス(糸)が伸びて感覚が変わる。シャトルのつかみ感と反発力という、一見相反する2つの性質を兼ね備えたストリングス。ミズノの社員の汗と苦労が染み込んだ試行錯誤のラケットで、奥原は勝利をつかんで、東京五輪に向かう。(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆松熊洋介(まつくまようすけ) 1977年(昭52)4月30日、福岡県生まれ。日刊スポーツ入社後、編集局整理部、販売局を経て、18年12月より東京五輪・パラリンピックスポーツ部に異動。現在、ラグビー、バドミントン、バスケットボール、ソフトボール、アイスホッケー担当。

奥原希望(2019年7月27日撮影)
奥原希望(2019年7月27日撮影)