柔道世界女王のもう1つの夢とは-。19年世界選手権女子57キロ級覇者で、カナダ代表の出口クリスタ(24=日本生命)は動物をこよなく愛し、引退後は「動物保護シェルター」を経営する夢を抱いている。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で自粛生活が続く中、出口は甲府市内の自宅で2匹の愛猫と文鳥とともに自主トレーニングの日々を送る。「彼らから毎日パワーをもらっています。家族の一員であり、前向きな気持ちにさせてくれます。将来はもっとたくさんの動物と生活したいです」。

自然豊かな長野県塩尻市で生まれ育った。中学校の英語教師であるカナダ人の父と日本人の母を持ち、3歳年下の妹のケリーとともに柔道の傍ら、図書館で動物図鑑を読んだり、昆虫採集するのが日課だった。「長野は空気も食べ物もおいしい。今も生活に自然がないとダメで、だから甲府にいるんです。昔から実家だけでなく、親戚も動物をたくさん飼っていて、動物と生活するのが当たり前でした。なぜか、幼少期はテレビが海外番組しか映らず、『アニマルプラネット』(世界最大級の動物チャンネル)ばかり見て育ちました。動物好きなのは、絶対にその影響があると思います」。出口は当時をこう思い返した。

山梨学院大入学後、日本代表として伸び悩んだ時、柔道を諦めて獣医師や麻薬探知犬のトレーナーへの道を真剣に考えた。その影響もあり、大学卒業後に「救える命は助けたい」として2匹の保護猫を自宅で飼った。1匹は生後6カ月までツナ缶を食べて育った「ツナ」。もう1匹は屋根から下りられず震えていた猫で、妹と相談の上「マヨ」と命名した。マヨは“猫教官”として、体幹トレーニングをサポートしている。この「ツナ・マヨ」の2匹と、文鳥の「ネギマ」は、出口の最高の癒やしとなり、メンタルケアにつながっている。

「長野の実家にいる黒猫2匹は『ゴマ』と『ミツ』。これまで飼った動物は、食べ物関連の名前ばかりなんです。『ツナ・マヨ』のせいで自宅の家具はボロボロですが、もっと広い家に住んで、もっと動物を飼いたいぐらいです。次は『サケ』ですかね」

五輪金メダルという夢をかなえ、競技引退後は自然豊かな地で「動物保護シェルター」を経営する夢を見る。「田舎は野良猫や野良犬が多い。そんな中でも動物は必死に生きているし、少しでも助けたいという気持ちがあります。柔道家であるうちにお金をいっぱいためて、いつか余裕が出来たら、ボランティアでシェルターを作りたい。それがもう1つの夢であり、野望です」。世界一の強さの裏には、優しさがある。その実力と容姿から「美人柔道家」としても注目を集めるが、それ以上に言動からおとこ気を感じる。2つの夢を追う、動物好きの24歳の世界女王が、夢への一歩を踏み出そうとしている。【峯岸佑樹】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

初制覇した19年世界選手権で、妹のケリー(右)と撮影する出口クリスタ(本人提供)
初制覇した19年世界選手権で、妹のケリー(右)と撮影する出口クリスタ(本人提供)