厳しい結果をかみしめ、雨に打たれながら、拍手を送る観客へと頭を下げた。

9月18日、東京・武蔵野市の横河電機グラウンド。ラグビーのトップイーストリーグに所属する横河武蔵野アトラスターズは、東京ガスとの開幕戦に臨んだ。

身長183センチ、体重109キロのNO8ジェイデン・マックスウェル(27)はベンチで出番を待っていた。

この夏、Amazon Prime Videoで大人気の婚活リアリティー番組「バチェロレッテ・ジャパン」シーズン2が配信された。その出演者としても注目を集めた男は、チームに勢いをもたらす、インパクトプレーヤーとしての役割を求められていた。

迎えた後半14分。スクラムで劣勢となり、自陣へ侵入を許したタイミングだった。常々「どんな時でも(登録メンバー)23人がそろっていく」と誓うマックスウェルがピッチに立った。

前年2位の東京ガスに対し、同4位の横河武蔵野は昨季2戦2敗。この春の交流戦は3位決定戦で破った相手だが、雨の条件を考慮した有効なキックに苦しめられた。マックスウェルもボールが手につかず、ノックオンで流れを手放す場面があった。3人を引きずりながらのパスなど良さも出たが、負傷もあって後半38分に途中交代。チームは10-30で開幕戦を落とした。

その人柄で縁を紡いできた。ラグビー王国のニュージーランド(NZ)で生まれ、思春期に日本でのホームステイを経験した。NZのデルワース高を卒業後、日本から誘いがあり、来日を果たした。白鴎大に在学していた16年には、7人制日本代表にも選出され、世界の舞台へと飛び出した。

だが、卒業後の進路は簡単に決まらなかった。

声をかけられたのが横河武蔵野だった。現在は日本最高峰リーグワン参入を視野に、トップイーストリーグで活動する。縁がなければ、母国に帰っていた可能性もあった。契約はプロではなく社員。マックスウェルは「(関連施設で)リハビリの手伝いをしたりしています」と柔和な表情で言う。

英語はもちろん、日本語でも積極的に意思疎通を図る。この日の試合後も「エクスキューズ ミー」と話し掛けてきたファンに対して「写真ですか? こっちで撮りましょう」と雨にぬれない場所へと招いた。チーム関係者も「いいムードーメーカー」と評する。関わる人への感謝、そして、気遣いを忘れない27歳だ。

プレー面の課題は一貫性。FW第3列で身長183センチは決して大柄とはいえず、持ち前の突破力を生かす運動量が求められる。「バチェロレッテ」を見て観戦に訪れるファンも多いといい、普段ラグビーを見ていない層からも注目が集まる。浮足立つことなくチームに貢献することで、その存在感はさらに増すはずだ。

開幕戦は黒星となったが、12月10日の最終戦まで7試合を残す。

目標は-。

その問いに対し、マックスウェルには迷いがない。

「このチームで優勝することです。僕は(グラウンドで戦う)15人の中の1人。個人ではなく、チームとして、優勝を目指します」

託されたボールを持ち、厳しい局面で1歩前に出る。たくましい背中を仲間に見せることで、新たな景色が開けてくる。【松本航】

(ニッカンスポーツ・コム/コラム「We Love Sports」)

◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大ではラグビー部に所属。13年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月からは五輪競技やラグビーを中心に取材。21年11月からは東京本社を拠点に活動。18年平昌、22年北京五輪と2大会連続でフィギュアスケート、ショートトラックを担当。19年はラグビーW杯日本大会、21年の東京五輪は札幌開催だったマラソンや競歩などを取材。

東京ガスとの開幕戦でボール争奪戦に参加する横河武蔵野のNO8マックスウェル(左から3人目)(撮影・松本航)
東京ガスとの開幕戦でボール争奪戦に参加する横河武蔵野のNO8マックスウェル(左から3人目)(撮影・松本航)
東京ガスとの開幕戦を終え、ファンにあいさつする横河武蔵野のNO8マックスウェル(左から2人目)(撮影・松本航)
東京ガスとの開幕戦を終え、ファンにあいさつする横河武蔵野のNO8マックスウェル(左から2人目)(撮影・松本航)