08年北京、16年リオデジャネイロ五輪柔道女子52キロ級銅メダルの中村美里(29=三井住友海上)が9日、現役引退した12年ロンドン五輪同57キロ級金メダルの松本薫さん(31=ベネシード)にねぎらいの言葉を贈った。

筑波大大学院の学位論文発表会後、松本さんについて「『本当にお疲れさまでした』という気持ちでいっぱい。出産後に競技復帰して、女子選手のロールモデルにもなって、たくさんの活力をもらった。『ありがとうございました』を何回言って良いのか分からないぐらいお世話になった」と、感謝の気持ちを伝えた。

中村は17年4月、「柔道以外の視野を広げたい」との理由で同大大学院に入学。スポーツ健康システムマネジメントを専攻した。研究テーマは「柔道トップアスリートの妊娠・出産」で、松本さんらを約1年間取材して論文をまとめた。柔道界では、出産後に競技復帰したのは五輪女子48キロ級2連覇の谷亮子さん(43)や松本さんぐらいの例しかない。「女性アスリートの挑戦は、支援する意味でも大きな価値があり、柔道では出産を理由に引退する選手もいる。社会的には待機児童問題などもあり、育児で練習時間が減る中、環境整備やサポートの大切さが分かった。松本さんを見て『出産・育児・復帰』が本当に大変で、これまで以上にいろんなことを犠牲にしていると感じた」。

松本さんは7日の引退会見で「出産後に『野獣』を作るのは大変だった」と発言した。中村はこの発言に理解を示し、「試合1カ月前から男になるので、そこから作り込むのが大変だったと思う。育児でこれまでの闘争心を作り上げるのが難しく、目の前にいる子供が優先になってしまうのはしょうがない」と話した。出産後、競技復帰するためには「育児の環境整備が重要」と訴え、「トップアスリートは練習をやりこんで心身を作る。練習時間をしっかり確保できるための環境作りが大切で、そのためのサポートが必要」と呼び掛けた。

昨年10月の福井国体以降は、本格的に論文の執筆に着手した。稽古は12月から週1~2日になり、年末年始は「ずっと自宅に引きこもっていた」と苦笑い。12日には松本さんがスタッフとして勤務するアイスクリーム店「ダシーズ」(東京・新宿区)がオープンする。「論文発表は柔道以上に緊張したし、違った疲れが出た。松本さんが作ったアイスを食べてエネルギーチャージしたい」と、疲れた表情で先輩との再会を熱望した。