男子73キロ級で、16年リオデジャネイロ・オリンピック(五輪)金メダルの大野将平(27=旭化成)が金メダルを獲得した。

15年大会以来の出場で3度目の優勝。リオ五輪決勝と同じ顔合わせの決勝でルスタム・オルジョフ(アゼルバイジャン)を内股で下した。初戦の2回戦から6試合連続一本勝ちで、来年の五輪連覇へ弾みをつけた。

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「絶対王者」が、強く美しい日本柔道を体現した。大野はリオ五輪で頂点を争ったオルジョフとの決勝でも変わらない。長身の相手をがっちり組み止め、破壊力抜群の足技攻撃で最後は右内股でたたきつけた。1分17秒。完勝だった。初戦から全6試合一本勝ちで、圧倒的な強さを示した。3度目の世界一になっても、表情を変ない姿に絶対王者としての風格を漂わせた。

大野 (五輪)王者でいることを忘れて自分の柔道を貫くことだけを考えた。優勝するだろうと思っていたし、何の驚きもない。

変化を求めた3年間だった。リオ五輪後は休養し、母校の天理大大学院で大外刈りをテーマとした修士論文を作成した。東京五輪を見据える上で、視野を広げて進化を遂げるためだ。昨年2月に本格的に競技復帰し、アジア大会から国内外で4連勝と揺るぎない強さを世界に示した。技の破壊力は健在で、防御面の充実度も高まり隙がない。

圧倒的な強さの秘訣(ひけつ)は、心技体の「心」の成長にある。柔道を続ける上で、勝利以上に己の理想像を追求する。日々、自分自身と向き合い「敵は自分」と言い聞かせる。「相手よりも手ごわいのは自分。リオ五輪とは違う大野将平という柔道家を作り上げている」。1日1000本の打ち込みや100キロ超級選手との乱取りなどは当たり前。試合までのメニューを綿密に計算し、試合当日は「普通にやれば一番強い」が答えだ。そのため代表選手では珍しく、ライバルの研究を一切しない。これまで積み重ねてきたことが大きな自信となっている。

日本武道館での試合は特別だった。周囲の「勝って当たり前」の期待と重圧に打ち勝ち、聖地で観客を沸かした。2連覇を狙う1年後のリハーサルを終えた。「柔道も人間力もさらに磨きたい」。2度目の集大成へ向け、己の研究を続けながら、その時を待つのみだ。【峯岸佑樹】

◆柔道の東京五輪代表選考 男女各7階級1人で、選手の準備期間確保を重視した「3段階」による選考で決める。(1)世界選手権優勝者が11月のGS大阪大会を制し、強化委員会で出席者の3分の2以上の賛成で代表入りが決定(2)12月のマスターズ大会(中国)、来年2月のGSパリ大会、GSデュッセルドルフ大会終了時点で、強化委の3分の2以上が1、2番手の差が歴然としていると判断すれば代表選出(3)最終選考は来年4月の全日本選抜体重別選手権で、強化委の過半数の賛成で代表決定する。

◆大野将平(おおの・しょうへい)1992年(平4)2月3日、山口県生まれ。東京・世田谷学園高-天理大-旭化成。13、15年世界選手権優勝。16年リオ五輪優勝。右組み。得意技は大外刈りと内股。趣味は風呂。たたずまいと豪快な投げ技から海外では「サムライ」と呼ばれる。170センチ。