男子90キロで初出場の向翔一郎(23=ALSOK)が銀メダルを獲得した。決勝でファントエント(オランダ)に優勢負けを喫した。同級の日本勢では05年カイロ大会の泉浩以来となる金メダルを逃した。

女子70キロ級で3連覇を狙った新井千鶴(25=三井住友海上)は3回戦でティモ(ポルトガル)に優勢負けし、敗退した。今大会の女子代表で初めてメダルを逃した。

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悲願の頂点に、あと1歩まで迫った。決勝で終了ブザーが鳴ると、向はうつぶせになって涙が止まらなかった。「まだまだ我慢が足りない。自分にムカつく。2位は1回戦負けと同じだし、これだけ悔しいのは初めて」と声を絞り出した。

大健闘だった。得意の背負い投げを軸に多彩な足技を使い、格上との接戦をものにした。ファントエントの決勝だけ一瞬の隙が出た。残り33秒。「いける」。こう思った瞬間、大外刈りに押し込まれて、小外刈りで技ありを奪われた。

天真らんまんな性格で、枠にはまらない独自のスタイルを貫く。学生時代は自身のことを「天才」と豪語した。日大4年の時、遅刻などの規律違反を繰り返し、柔道部を一度退部となった。退寮して1人出稽古が続き、金野潤監督に謝罪して、再び柔道部に受け入れられた。「傲慢(ごうまん)だった。勝てば何でも許されると思った。周囲の助けがあって柔道が出来ることを痛感した」。

今は感謝の気持ちを忘れず、柔道と向き合っている。勝負事においては「超人」を追求。7月中旬の国際大会で左足中指を骨折し、全治1カ月だったが「気合」で1週間で完治させたという。独特の感性を持つのが強みでもあり、金野氏はこの日、「自由に暴れてこい」と背中を押した。

好きな言葉は、世界王者に与えられる「赤ゼッケン」だ。今回、その夢はかなわなかったが、向らしさは見せた。「来年こそ日本武道館で勝つ」。柔道界の異端児が、恩返しの夢舞台に向けて再出発する。【峯岸佑樹】