【ソウル8日】フィギュアスケート4大陸選手権(韓国)の男子ショートプログラム(SP)で、羽生結弦選手(25=ANA)がSPの世界最高記録となる111・82点をマークしました。冬季オリンピック(五輪)2連覇を達成した18年平昌大会のショパン「バラード第1番」に今大会から回帰。2年ぶりの再演で、自身が持っていた110・53点(18年ロシア杯)という歴代最高得点を1・29ポイント更新したのです。

そのタイミングが運命的でした。憧れのジョニー・ウィアーさんが滑った「秋によせて」から「バラ1」に戻したことは、今月1日の国際スケート連盟(ISU)バイオグラフィー更新であったり、本人の口から次々と思いが語られて話題になってきましたが、ドラマチックな一致があった、と思うのは年齢です。

「バラ1」はポーランド出身のショパンが1835年、25歳の時に完成させたと伝えられる作品。くしくも、羽生選手が同じ25歳になったシーズンによみがえらせたのでした。

常に上を目指す演目に完成はないのでしょうが、異次元のGOE(出来栄え点)や演技構成点など、高い完成度で世界最高得点を塗り替えることは確かです。何か縁を感じずにはいられません。

世界新を3度も出してきた「バラ1」が再演によって進化。「これまでのバラ1で最も良かったんじゃないかと。今日やってみて思ったんですけど、やっぱり違うものになるなと。(2年前の平昌五輪とは)経験値が違いますし、音の感じ方とか間の取り方、どういう風に表現したいかという部分が全然違うので」と成長を実感しました。25歳になったからこそ、です。

また、ショパンは「バラ1」を4~5年かけて完成させたと言われています。羽生選手も、通算4季目の導入となった同曲について「ワインやチーズみたいなもの。滑れば滑るほど、時間をかければかけるほど、熟成されていって深みが出てくるプログラム。とても自分らしい。心から曲に乗せてジャンプしたり、ステップしたりすることができた」と語っていた点も、勝手ながらショパンと結びつけたくなります。

荘厳な低音の序奏から始まり、美しい旋律、強い音など起承転結のあるドラマをパッセージ(つなぎの旋律)で紡いだ曲想。英雄的であり、神秘的というバラードは見事に演技と調和していました。

「すごく気持ち良く滑れました。曲に気持ちを乗せることができて。『フィギュアスケートって楽しいな』って思いながら滑ることができました」

「自分って思えるプログラム。自分の中から出せるという感覚があります」

「曲をすごく感じることをしながらも、クオリティーの高いジャンプを跳べたのは、このプログラムならでは」

「(練習では転倒していた4回転サルコーを完璧に降り)本番になったら、音と跳びにいくフォームが一緒に記憶されているんだろうなと。曲自体を信じて跳べたのが大きい」

「何の雑音もなく滑り切れて。最後まで1つ1つの気持ちの流れみたいなものを、最後の音が終わって、自分が手を下ろすまで、つなげられた…心地よかった」

演技後の取材であふれた「バラ1」への愛。それが再会を呼び込んだかのようでした。

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ここからは余談ですが…筆者は、こんな偶然にも期待していました。羽生選手が「バラ1」を舞うのは、平昌五輪のSPが行われた18年2月16日以来。721日ぶり、つまり1年11カ月22日ぶりでした。

「1(年)11(カ月)22(日)」すなわち「111・22点」で世界最高得点を更新しないかな、なんて安い語呂合わせを演技前は考えていましたが、そんなことを一瞬で忘れさせてくれる衝撃の111・82点。0・60ポイント、うまくも根拠もない空想の上をいかれました。

SPの直後は原稿に追われ、一夜明けて思い出しただけで、こちらに意味はありません。今年、サッカー担当→フィギュアスケート担当になったばかりでも、初めて生で見た「バラ1」は次元の違いが分かりました。コメントを通して「やっぱりジャンプと音楽の融合が好き」という羽生選手の曲への理解度、こだわりも強く感じられました。だからこそ、ともに25歳という巡り合わせを「運命」と書いてしまった次第です。語呂合わせは個人的な好みです。【新フィギュアスケート担当=木下淳】