昨年のラグビーW杯日本大会で日本代表がスコットランドを破り、初の8強を決めてから13日でちょうど半年となる。

瞬間最高視聴率は53・7%(関東地区)。日本中が熱狂した戦いに胸を打たれたのは、ファンだけではない。日本代表に次ぐ位置づけの「ジュニアジャパン」は3月のパシフィック・チャレンジ(フィジー)初優勝。新型コロナウイルス感染拡大で先が見えない苦しさの中、23年W杯フランス大会へ“金の卵”が成長を遂げている。

  ◇  ◇  ◇

見る者は祈りを込め、横浜の地で日本代表は体を張り続けた。19年10月13日、日産スタジアム。1次リーグ最終戦のスコットランド戦は、28-21で競り勝つ死闘だった。台風19号の影響で試合開催自体が危ぶまれた。それでも総勢約2000人が会場の復旧に尽力し、初の8強で日本中が笑顔になった。あの時、今の世の中は想像できなかった。

新型コロナウイルスの感染が世界中に広まっていた3月14日、南太平洋のフィジーで快挙が生まれた。18~22歳で構成されたジュニアジャパンが、パシフィック・チャレンジ初優勝。トンガ、サモア、フィジーの同カテゴリー代表に3連勝し、選手は「日本が元気になるニュースを届けよう」の言葉を胸に団結した。

ジュニアジャパンの水間監督は昨年、日本代表ジョセフ・ヘッドコーチに「いい選手はぜひ教えてくれ」と伝えられた。フィジー遠征を終え、監督は「今後、ジェイミーに推薦できる選手がいます」と口にする。

「まずはプロップの紙森。スクラムが強いのは武器になる。それだけでなく状況判断もできる。そしてCTBの李承信(り・すんしん)。仕掛けるところ、加速も良い。加えてFBの河瀬のスピード。それぞれ課題はあるけれど、ポテンシャルの面では推薦できる」

真っ先に名前が出たのは、近大新3年生の紙森だった。ベンチプレス165キロ、スクワット240キロ。日本代表と連携するジュニアジャパンでは筋力トレーニングの数値が共有されるが、自慢のパワーは遜色ない。その紙森は同じ左プロップの日本代表稲垣啓太(パナソニック)に憧れる。あのW杯は“教材”だった。

紙森 ジュニアジャパンに入って「W杯に出たい」と思うようになったんです。W杯は楽しむんじゃなく、稲垣さんをとにかく観察しました。1番(左プロップ)として、どういう動きをするのか、どれぐらい走るのか…。あれだけ動く稲垣選手は目標になります。

FB河瀬は元日本代表の父泰治さん譲りの身体能力で、W杯日本代表WTB福岡のようなスピードが自慢だ。主将を務めた李は身長175センチと小柄。その姿は帝京大の先輩であり、178センチで世界を驚かせた日本代表CTB中村とかぶる。

ジュニアジャパンの合言葉は「HERO」。水間監督は「みんな子どもの頃に憧れたヒーローがいる。行動、言動…。1人1人がヒーローになってほしい」と願う。次世代のヒーローたちは、苦しい今も黙々と牙を研いでいる。【松本航】

◆パシフィック・チャレンジVTR ジュニアジャパンは3月6日、トンガAに46-10で勝利。10日にはサモアAを76-3で下した。初優勝を懸けた14日のフィジー・ウォリアーズ戦は紙森、李、河瀬がそろって先発。スクラムで主導権を握り、21-12で競り勝った。遠征には高卒で神戸製鋼に入団している日下、浜野も参加。水間監督は「準備の意識が高い。そのあたりも大学生が吸収してくれたらいい」と期待を込めた。