男子フルーレで、日本代表の西藤俊哉(23=長野クラブ)が初戦で敗れる波乱があった。国内ランキング3位として同14位の藤倉類(慶大)を迎え撃った中、序盤から一進一退。1点を争う攻防が続き、最後は14-14から勝敗を決めるポイントを奪われ、ひざに手を突いて悔しがった。

法大2年だった17年に世界選手権で銀メダル。前年リオデジャネイロ・オリンピック(五輪)の金メダリスト、ガロッツォ(イタリア)を破っての準優勝で注目された。同年に、この全日本選手権でも初優勝。以来の頂点を目指したものの、想定していなかった1試合で散った。相手の藤倉も昨年の世界ジュニア・カデ選手権で銅メダル獲得と勢いがあり、最後は押し切られた。

試合後は「出るからには優勝しかないと思っていたし、できる限りの準備はしてきた。かなり緊張したのもあるけど、自分の実力が足りなかった」と振り返った。新型コロナ禍の中での全日本。優勝経験者でも「独特な雰囲気だった。久々の実戦に落とし込んでいくことが難しく、のまれてしまった。ただ、相手も同じ状況。結果は素直に受け止めるしかない」と話した。

自粛期間中は97年生まれのアスリートで結成する「97会」の一員として、オンラインでイベントを行ったり、他競技との交流をさらに深めた。「1歩、フェンシング界の外に出て、違う競技のアスリートの考え方や、新しい価値観に触れることができた。1人の人間として学びがあった」という。

さらに、大会中止が相次ぐ子供たちのため、関係者を通じて愛知県での大会「AICHI OPEN FENCING 2021」を開催すべくクラウドファンディングにも協力。目標の150%を超える支援を集めた。

「夢だったり、目標を立てることが難しくなっている今、何かできることをやってあげたいなと。まずは試合ができるよう準備していく。子供たちと接して元気をもらったし、本当は全日本で優勝して一緒に喜べれば良かったけど…。悔しい。申し訳ない。でも、来年の東京オリンピック(五輪)は可能性があるので、また頑張りたい」

自身も、今回交流した小学生たちと同じくらいの年齢(小学校3年)で五輪と金メダルを意識した。「子供のころから僕の目標は変わらない。来夏に向けて、やることも変わらない。突き詰めていく。まだ次の試合はどうなるか分からないけど、小さな目標を立ててやっていく。何の迷いもない」と力を込めた。

感染症対策で、実力伯仲のラウンド16からのスタートだったとはいえ、まさかの初戦敗退。「今の実力です」と認めながらも、どん底からの東京五輪へ「ずっと抱いてきた夢、金メダル獲得を体現したい。自分の行動と発言に説得力を持たせられるようにしたい」。揺るがずに、はい上がっていくしかない。【木下淳】