2日間で「269球」を投げ抜いた。ビックカメラ高崎のエース上野由岐子投手(38)が3安打、14奪三振の完封で、チームを2連覇に導いた。

139球の4失点完投だった前日7日の準決勝トヨタ自動車戦に続く連投。それをまったく感じさせない。三塁すら踏ませない130球。最後までマウンドを譲らなかった。ソフトボールは7回まで。実に21個のアウトのうち、3分の2にあたる14個を三振で奪った。インコースのシュートをうまく使い、カウントを有利にした。「昨日と今日で体の感じも違った。昨日の疲労感を踏まえた体のコンディショニングだったが、ベストを尽くせた」と振り返った。

最終回は1死一、二塁のピンチだった。「勝ちを意識し、力んでしまった」。でも、修羅場を何度もくぐり抜けてきたベテランは崩れない。2者連続三振にしとめた。両手を大きく広げると、みんながマウンドをめがけて走ってくる。上野を中心に、歓喜の輪ができた。

岩渕有美監督は継投を視野に入れていた。ブルペンは試合中盤まで控え投手が投げていた。でも、最終回は誰もいなかった。「ここまで来たら、最後はエースに託した」と指揮官。託された思いに、見事に答えた。今季はリーグ8位の防御率2・26、そして勝ち星は3つだけ。不本意なシーズンだったが、大一番で頼りになるのは、やはり上野だった。

東京五輪が延期となり、「正直、複雑」とモチベーションの維持に悩んだ時期もあった。ただ、未知のウイルスによる特別なシーズンを過ごし、「当たり前」に試合ができることのありがたみを感じた。無観客試合を経験し、「スタンドの拍手1つ」で「自分の背中が押されている」ともあらためて知った。東京五輪は応援してくれる多くの人の希望を背負う。「金メダルを期待させている。個人的な結果よりも、みんなの期待に応えたい。ただ、それだけ。後悔のないように準備して臨みたい」。もう、迷いはない。気持ちは完全に切り替わっている。

上野の413球-。あの決勝までの2日間にわたる3試合を1人投げ抜き、金メダルに輝いた08年北京五輪から12年が経つ。まだまだ上野は健在だ。「オリンピックを想定した中、こういうピッチングができたことは収穫」。来年7月21日の五輪開幕戦の翌日は39歳の誕生日。年齢など関係ない。フル回転するつもりでいる。【上田悠太】