東京オリンピック(五輪)男子60キロ級の金メダリスト高藤直寿(28=パーク24)が、初戦敗退した。

五輪王者として最軽量級から推薦出場。減量はせず65、66キロに整えて挑戦。早大の主将を務めた90キロ級の実力者、田中大勝(アドヴィックス)を相手に腕ひしぎ十字固めで一本負け。その前には、小内巻き込みを仕掛けたところを裏投げで返され、技ありを取られるなど、最軽量級からの果敢な挑戦で体格差を見せつけられた。

それでも序盤は鋭い組み手で会場を沸かせた。東京五輪以来の武道館を満喫したが、第一声は「悔しいですね」。続けて「最初の数十秒はいい組み手を見せられたと思うけど、一瞬の妥協、下がったところで負けにつながる。60キロ級だと、しのげていたので」と振り返った。

裏投げを受けた際、脳振とうになったという衝撃が無謀とも言われる出場の危険さを物語る。

「背中をつかないよう、ひねったんですけど、それでも脳振とうだったので。背中ついてたら死んでいたかも」と打ち明けたほどだったが「武道館の、全日本の畳に立って戦えたことは誇りに思うし、小さいころからの思い入れがあったので気持ち良かった。もう1度、五輪、世界選手権で勝って(優勝者の推薦出場で)戻ってきて、次は1勝したい」と今後の挑戦継続も明言した。

1つ前の試合で敗れた73キロ級の五輪2連覇王者、大野将平(30=旭化成)が「柔よく剛を制す、は幻想に過ぎない」と語ったことを伝え聞くと、足取りや旗判定がなくなった現行の規定を念頭に「今のルールでは幻想に過ぎないと思う。足取りがあれば柔よく剛を制すにもつながる」とし、世界選手権の代表選考を兼ねている形の再考も一案として挙げるなど、ただ出るだけではなく、金メダリストとしての提言も含めて存在感を示した。

試合中も、3年ぶりの有観客となった聖地から、大野と1、2を争う大きな拍手が送られた。【木下淳】