テニスの4大大会、今季第3戦のウィンブルドン選手権が27日、英国ロンドン郊外で始まる。賞金総額は過去最高の4035万ポンド(約68億円)。しかし、ロシア、ベラルーシの選手を閉め出し、世界ランキングのポイントも反映されない。厳密に言えば、4大大会最古の歴史と伝統を誇る前代未聞の非公式戦、ただの壮大なマネートーナメントが幕を開けるということだ。

主催者であるオールイングランド・テニスクラブ(AELTC)は、4月20日に、ウクライナに侵攻したロシアと、それを支援したベラルーシの選手の出場を認めないことを発表した。両国選手が活躍した場合、ロシア政権が何らかの利益を得ることを容認できないのが主な理由だ。

それに対抗し、男女のツアーを運営するプロテニス選手協会(ATP)、女子テニス協会(WTA)、世界のテニスを統括する国際テニス連盟(ITF)は、5月20日、今年のウィンブルドンに、世界ランキングのポイントを反映させないと声明を出した。

コロナ禍で世界ツアーが中断したときは、世界ランキングも凍結された。しかし、今回のウィンブルドンは昨年の同大会で獲得した世界ランキングのポイントが消滅するだけで、今年の加点はない。昨年のウィンブルドンで活躍した選手には厳しい条件だ。

今大会第1シードで、4大大会20度の優勝を誇るノバク・ジョコビッチ(35=セルビア)は、1月の全豪では、新型コロナのワクチン未接種で国外退去となり、今回のウィンブルドンでは加点がない。全豪もウィンブルドンも昨年は優勝し、各2000点、計4000点を獲得した。しかし、そのすべて失うだけで、加点は全くない。

ジョコビッチは「誰にとっても不幸な決定。(ウィン-ウィンではなく)ルーズ-ルーズだ。どちらも支持しない」と怒りを表す。徹底的にATPを批判するのは、最高18位にまでなったブノワ・ペール(フランス)だ。「たった数人のロシア選手のために、なぜ多くの選手が犠牲になるんだ。ATPはロシアを守るのか、他の選手を守るのか」。

日本選手でも、意見はさまざまだ。世界101位で、世界ランク日本男子NO・1の西岡良仁(26=ミキハウス)は「全員を平等に扱うのは無理な話。ロシアやベラルーシの選手はかわいそうだが、そのために全員が割を食った感じ」という。女子で同108位の土居美咲(31=ミキハウス)は、「ロシアやベラルーシの選手がかわいそうと思う半面、何とか経済制裁などで戦争を止めようとしている中、テニス選手だけいいのか?、というのも分かる」と、複雑な心境を明かした。

しかし、不可解なのは、3月から4月にかけてのウィンブルドンの動きだ。3月1日に、ITF、ATP、WTA、そしてウィンブルドンを含む4大大会の主催者は合同で、ロシアとベラルーシの選手に対し、ツアーへの出場を認める決定を発表している。国名、国旗の使用は禁止し、個人の参加とはなるが、ウィンブルドンも、この決定に賛同していたはずだ。しかし、4月20日に、両国選手の出場禁止を表明。この1カ月半ほどに、一体、ウィンブルドンに何があったのか。【吉松忠弘】(下に続く)

◆ウィンブルドンテニスは、6月27日から7月10日まで、WOWOWで全日生放送。WOWOWオンデマンドでライブ配信される。