阪神、ロッテで活躍した鳥谷敬氏(41=日刊スポーツ評論家)がアスリートに迫る「鳥谷敬VSパリ五輪の星」。第3回は女子レスリング53キロ級で公式戦100連勝を達成したばかりの超ホープ、藤波朱理(18=日体大1年)と語り合った。前編では記録の重圧を知る2人ならではの白熱トーク。24年パリ五輪金メダル候補の本音とは-。【取材・構成=佐井陽介、木下淳】

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鳥谷 練習を見させてもらって、すごくスピード感を感じました。他の選手より背が高いのに、構えた時は身長が低い選手と同じぐらいの目線なんですね。

藤波 身長が高いと、どうしても腰高になってしまいます。そうなるとタックルに入られやすくなる。低く構えて長いリーチを生かして、相手に足を触らせないように意識しています。

鳥谷 スピード感を上げる練習もあるんですか?

藤波 ひたすらタックルの反復練習ですね。

鳥谷 正直、練習を見ているだけで疲れました(笑い)。ずっと続けていて嫌になる瞬間はないですか?

藤波 練習がキツくて「嫌やな」という時はありますけど、レスリングが嫌になったことはないですね。

鳥谷 自分は柔道を小学校6年間やっていました。試合は面白いけど、練習は嫌でした。キツいし、なぜか四つんばいになったり畳を運んだり…。

藤波 同じです(笑い)。でも、実際にやると夢中になってしまいます。

鳥谷 レスリングの魅力は何だと思いますか?

藤波 他の競技と比べて道具を使わない。つかむ場所もない。純粋に人と人との強さの戦いというところが格好いいなと思います。

鳥谷 ケガとの向き合い方はどう考えていますか? 自分にも娘がいるけど、ケガをされるとどうしても心配になってしまいます。

藤波 確かにレスリングはケガが付きものです。ほとんどの人がどこかしら痛い状態です。でも、自分はケガをしないことも1つの武器。ストレッチだったり準備運動だったり、食事面にも気を使っています。

鳥谷 食事はどこら辺に気を使うのですか?

藤波 減量期は足りない部分をサプリメントで取ったりもしますが、普段はバランス良く高タンパク低脂質を常に心掛けています。

鳥谷 減量期との体重の幅はどれぐらいですか?

藤波 自分の場合は大体3キロぐらいですかね。

鳥谷 藤波さんは連勝記録も注目され続けています。重圧はありませんか?

藤波 自分は連勝記録を過去のことだと考えています。マットに上がれば過去は関係ない。自分が今大切にしているのはこれからの勝利。ただ、寝る前に目をつぶると不安がよぎってくるのも事実で…。それを限りなくゼロにするために日々練習しています。

鳥谷 自分は現役時代に十何年、試合に出続けました。連続出場記録が止まった時はすごく騒がれたけど、自分自身はさほど気になりませんでした。その日が来た時に納得できるように練習していたからだと思います。藤波さんも練習への姿勢や考え方を聞かせてもらった限り、いつか記録が止まる日が訪れても納得できそうですね。もちろん引退まで連勝が続けば1番ですけど。 (後編に続く)

◆藤波の現状 6月18日の明治杯全日本選抜選手権に優勝して公式戦100連勝。2連覇が懸かる9月の世界選手権(セルビア)代表に内定した。53キロ級には東京五輪金メダルの志土地(旧姓向田)真優もおり、強力ライバルを倒した先にパリ五輪金メダルがある。

◆藤波朱理(ふじなみ・あかり)2003年(平15)11月11日、三重県四日市市生まれ。88年ソウル五輪代表候補だった父俊一コーチの影響で4歳から競技を始める。中学2年の全国大会決勝で伊藤海に負けて以来、全勝。いなべ総合学園高から今春、日体大に進んだ。21年10月の世界選手権で日本勢の高校生では5人目、史上2番目の年少世界王者に。総合格闘家の兄勇飛(26)も17年の世界選手権男子フリースタイル70キロ級銅メダル。164センチ。

◆鳥谷敬(とりたに・たかし)1981年(昭56)6月26日、東京都出身。聖望学園3年夏に甲子園出場。早大を経て03年ドラフト自由枠で阪神入団。1939試合連続出場はプロ野球歴代2位。17年に通算2000安打を達成した。19年オフに阪神を退団し、ロッテで2年間プレーして現役引退。13年WBC日本代表。11年最高出塁率、ベストナイン6度、ゴールデングラブ賞5度。180センチ、79キロ。右投げ左打ち。

【後編はこちら】【鳥谷敬vs藤波朱理】100連勝18歳が明かすカレー巡りと父「腹立つな、ぐらいです(笑)」