フィギュアスケート男子の冬季五輪2連覇王者で、先月プロ転向を表明した羽生結弦さん(27)が10日、拠点のアイスリンク仙台で公開練習イベント「SharePractice」を敢行した。新たなステージに進んで初の演技。代名詞「SEIMEI」披露やクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)挑戦、計3時間に及んだ異例の取材対応で魅力を発信した。7日に開設した公式YouTubeチャンネルで初のライブ配信も行い、最大10万人の生視聴者とも共有した。

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プロ初練習公開後に聞いた。

-今回の意図は

プロとして活動していくに当たって、なかなか練習の光景や4回転半(4A)を見せる機会がなくて。アスリートらしさ、自分の根本にある、さらに追求する姿を見ていただく機会になればいいなと。急きょだったので、やれる演目や曲には限りがあったんですが。

-ライブ配信の生視聴者数が10万人を超えた

自分の楽曲を使っているわけではないので、実際、お金がかかるんです。でも今回は見ていただけたらと無料で公開しました。自分が使っていきたい楽曲を申請すると莫大(ばくだい)なお金がかかるので、チャンネルの活用方法は考えていきますが「羽生結弦ってこういう練習してるんだ」とか、フィギュアスケートって華やかなイメージがあると思いますけど「こんな泥臭い、必死にもがいている姿があるんだ」と見ていただきたくて。スケートに興味がない方にも見ていただきたいと思っています。

-会場のアイスリンク仙台への思いは

ここで練習できることが特別。昔みたいに、いろんな選手と練習する機会はなくなったけど、地元を離れず、地元で練習しても自分を高めていける特別な感情がある。大好きな故郷を少しでも支援していく活動を含め、頑張っていきたい。

-だからプロ転向後の門出の場所に選んだのか

リニューアル前は違う(運営)会社だったと思いますが、自分がスケートを始めた場所で、今もメインで練習している活動拠点。その意味で、ここで練習してる姿を見ていただければと思いました。あとは僕、仙台が好きなので。カナダに練習拠点を移した時も、正直、仙台を離れたくないと泣きながら行ったほど。これからも仙台の皆さんと歩めれば。今後も練習拠点はここがメインかな。仙台や宮城でショーができれば。

-宮城県民へ

北京五輪では確かに4A成功できず、メダルを取れなかったんですが、それでも応援し続けてくださる声を聞いて、もっと結果を出したかったと思いました。4Aを含めて、結果にも貪欲にこだわっていきたい。

-その4回転半へのチャレンジは今後どうするか

自分、いつも夜中に練習しているので(昼に)思ったより体が動かなくて悔しかった。絶対に4A降りる姿を見ていただけるよう、死にもの狂いで頑張っていきたい。プログラムの中で跳ぶ機会があれば一番ですが、まだその確率になっていないし、今日もやったけど、頑張ってもまだ(昨年末の)全日本選手権の時の4回転半くらいにしかなっていない。左足にかなり負担がかかる。でも全日本のころよりは左足も良いし、右足首も良くなっているので挑戦できている。これからも平昌五輪の経験など学んだことを生かして、もっとうまくなっていきたい。

-今後の見通しは

これやりたい、あれやりたい、がちょっとずつ決まってきて。そのための練習も始めています。(先月の)会見をやってから進み始めた。この公開練習も、会見が終わってから動き始めた。めちゃくちゃバタバタしていて寝る時間を削りながら。それでもやっていきたいと思っているので、楽しみにしていただけたら。

-プロになって感覚が違うところはあるか

競技とは違うなと思う点はあります。例えば競技は6分間練習やって1個のプログラムやって終わりですが、点数を付けてもらうためのスケートではなくて、皆さんに見ていただけるプログラムをやっていかないといけない。それプラス、競技よりもさらに、例えば今日の「SEIMEI」のようにギアをひとつ上げた演技をしないといけない。練習を見ていて分かったと思うんですけど、もっときついです。新しいショーを組み立てようとする時も本当にきついなと思ってやっていますけど、レベルを落とすことなく最後までやり切りたい。新しいショーの形に、自分の瞬発的な高さに期待していただきたい。

-カナダ・トロントなど指導者たちへの感謝は

本当は、早く僕が練習していたチーム(クリケットクラブ)に帰って、あいさつしたいと思ってるんですけど、いろいろな企画を立てたり、YouTubeも自分で撮影したり編集したり、ド素人みたいなものを作っていて。まあ僕らしくていいかなと思っていますけど、バタバタしていて、なかなかあいさつできず心苦しいです。でも今日もジスラン(ジャンプコーチ)から『見てるからね』とメールがきていて、最後の最後まで見届けてくれようとしてくれる姿勢だとか、いろんなアドバイスを遠くからでもいつも送ってくれるところとか。早く直接あいさつがしたい。ジスランにもトレイシー(・ウィルソン)にもブライアン(・オーサー)にも会えていない期間が長いので、コーチたちに早く『ありがとうございます』『これからもよろしくお願いします』と、あいさつに行きたい。あとは仙台を拠点にしている(阿部)奈々美先生(田中)総司先生(山田)真実先生、都築(章一郎)先生たちにも。もしかしたら、これを見てくれているかもしれない。『本当にありがとうございます』との気持ちを届けたい。本当に会いたい。

-現在の心境と新ジャージーのデザインについて

まずジャージーですが、これから出発するに当たって新しいものを作ろうと急きょ決まって。実際に渡されたのは今日で、とりあえず仮の形。ここから新たにやっていこうと思っています。こだわりとしては「SEIMEI」をほうふつとさせるような色合いを採り入れました。心境は、会見が終わってから、ずっと今日まで緊張しながら生活してきました。いろんな活動をするためにプロとしてやらないといけないこと、今まで人任せにしてきたものを自分から率先してやっている。なので大変ではあるし、睡眠時間もだいぶ減っちゃったなと思いながらやっていますけど、気持ちの中では「競技者よりもハードな練習をしないとな」と思っていますし、実際しています。今までは試合に追われながら頑張ってきましたけど、今は皆さんの期待を上回りたい。そっちの方が大変だと思いますけど、充実した日々を送れています。僕は競技者としてけがが多かったんですが、プロは欠場とかが許されない。楽しみにしてくださる方の気持ちを踏みにじりたくない。すごく思います。これからプロのアスリートとして、けがをしないよう、常に高いレベルで見ていただけるようにしていきたい。

-「シェアプラクティス」の題名と「地獄のインタビュー」を設定した理由

今まで公開練習や試合の中で個別のインタビューを受けることができなかったので、短い時間でパパパッとこなすことは難しいんですけど、皆さんとの個別の時間を無理やりにでも入れたいと思って。本来は囲みだけと考えていたんですけど、無理やり、やらせてくださいと言いました。それぞれの媒体で「各社さんの羽生結弦」を書いていただけたらうれしいなと。あとは(ShareとPracticeの間に)半角スペース入れなかったんですけど、自分の中では1つの単語と考えている。最初は「オープンプラクティス」とか「オープントレーニング」とか考えたんですけど、皆さんと共有して一緒に戦っていく時に、シェアが一番自分らしいかなと思い。イベントでありつつも戦い抜く姿を見てほしいという趣旨があったので、練習の単語を外さず「シェアプラクティス」という造語にすることを僕が決めました。