<レスリング:全日本選手権>◇女子55キロ級◇最終日◇23日◇東京・代々木第2体育館

 女子55キロ級で五輪2大会連続金メダルの吉田沙保里(29=ALSOK)が、苦しんでロンドン五輪切符を獲得した。決勝で高校3年生の村田夏南子(JOCエリートアカデミー)に大苦戦。日本人相手に2年ぶりに2ポイントを失った。全日本10連覇達成も「このままでは金メダルは絶対無理」と気合を入れ直していた。女子63キロ級は伊調馨(ALSOK)が完勝して五輪出場を決め、2人はロンドンで日本女子史上初、世界で3人しかいない大会3連覇に挑む。

 かつてないどよめきが会場に起こった。国内で初めて見る無敵の女王の苦戦。大番狂わせの不安と期待が、入り乱れた。それは、決勝開始8秒から始まった。

 吉田の左足に、挑戦者が飛びついた。片足タックルで裏返しになる女王。1ポイントを許した。すぐ体を返してニアフォールに持ち込み、2ポイントを奪い返した。この間5秒。逆転はした。だが、予期せぬ目まぐるしさ。場内が沸いた。

 第1ピリオド(P)終了間際、再び村田にタックルを許した。左足を取られ、背後を取られる。2-2の同点でブザーが鳴った。結果は、より大きい得点技を決めた吉田が勝った。だが、日本人相手にPが同点だったのは、01年12月の全日本女子で山本聖子に敗れて以来。激しく息が乱れた。

 第2Pは1-0。守って優勝はした。だが「本当に情けなくて言葉がない。全然足が動いていなかった。足と腰が浮いている感じで下がりすぎ。これでは五輪で金メダルは絶対無理」。負け試合のようだった。

 重圧は思いのほか強かった。高校生には負けられない思い。勝てば五輪という意識。そして、小原も伊調も先に五輪を決めて「私が最後に残されたので…」。悪夢もよぎった。9月の世界選手権決勝でタックルを返されてPを落とした。光景がよみがえり「腰がフワフワしていて、足が地に着かなかった」。大会前には左肘痛と右腕の肉離れにも悩まされた。

 それでも「勝ったんで」と、ホッと息をついた。2大会連続で苦しみながら、頂点だけは譲らなかった。「このままではダメだぞと教えてくれた気がした。体重を増やしてパワーアップする。大嫌いだった組むレスリングにも取り組む。今まで以上に練習する」。女子で日本初、世界でも3人だけの五輪3連覇は、決して楽な道ではない。そう分かったことが、何よりの収穫だった。【今村健人】