ラグビー日本代表のパシフィック・ネーションズカップ(PNC、27日開幕)に向けた宮崎合宿に参加中のプロップ稲垣啓太(29=パナソニック)が、故郷へ恩返しをした。母校の新潟工高の天然芝化計画に伴い、費用のほぼ全額となる約300万円を寄付。W杯での大勝負を前に「男稲垣」が一役買った。

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29歳の武骨な男は実戦練習でも心身を追い込んだ。前日に続き、試合を想定した40分間の「休みなしメニュー」では、足を止めることなく、体を当て続けた。他選手が疲労で両膝に両手を付く中、稲垣は疲れた表情を見せず、前を向いた。

2度目のW杯まで残り72日。活力となっているのが、地元新潟への愛情だ。花園に計43回出場を誇り、新潟県の強豪として知られる新潟工高だが、近年は部員不足に悩んでいた。同校の樋口猛監督(47)は充実した練習環境を整備することで「部員増につなげたい」と考え、天然芝計画を立てた。ラグビーグラウンド(縦約100メートル、横約80メートル)には約4万5000株の苗の他、芝刈り機や散水用ポンプなどの管理費用もかかる。合算して約300万円と試算し「県立高校では難しい」と頭を抱えていた。

5月中旬、この計画を耳にした稲垣が「お役に立てるのなら、ぜひ協力させてください」と手を挙げた。同下旬には稲垣が母校を訪れ、部員やその保護者らと苗作りに励んだ。後輩たちは肥料や水やりなど世話を続け、今月7日に苗の植え付けを実施。9月上旬には天然芝のグラウンドが完成する。高1で本格的に競技を始めた稲垣は「高校はラグビーの原点。母校への恩返しとともに、新潟県の競技普及につながってもらえたらうれしい」と願った。

W杯開幕前の9月8日にはグラウンド開きを行う予定だ。樋口監督は「部員らと手作りというのが稲垣らしい。彼の活躍は高校だけでなく新潟県民の誇りだし、緑のグラウンドにしてW杯へ送り出したい」と語る。寡黙な仕事人は、恩師や後輩への思いを胸に、2度目の大舞台への準備を進める。【峯岸佑樹】