日本が、作り上げたスクラムの進化を示した。開始早々にFBマシレワがインゴールでノックオン。1本目の攻防は、いきなり自陣ゴール前5メートルだった。低い姿勢からヒット、押し合いと8人の力は抜けない。6秒の制止後、相手は展開に切り替えた。ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)は「スクラムはかなりうまくいった」と評した。
伏線があった。昨年11月の敵地イングランド戦。序盤から3本連続で反則し、13-52で完敗した敗因になった。相手の左プロップが日本のフッカーの方向へと出てきたことで、右プロップの具に圧力がかかる。その教訓から全員で具を前に出し、左プロップ稲垣、フッカー堀江の支えで具が真っすぐ組める形を追い求めた。今年、FW陣が練習から繰り返す合言葉は「ティア1(世界の強豪10カ国)メンタリティー」「タンデン」「アシ」。丹田(たんでん)はへその数センチ下を指し、力の源となる部位を意識する。脚(アシ)はFW後ろ5人の脚作り。6月の千葉・浦安合宿では総重量2・8トンの新スクラムマシンで強化を図った。
8人の力を漏らさず、相手に100%を出させないスクラム。元日本代表の長谷川慎コーチが16年の就任後、一貫して追い求めてきた。前回W杯終了後、同コーチは1度は古巣ヤマハ発動機(現静岡)コーチに復帰。だがジョセフHCの続投決定後、代表に戻った。
長谷川 19年W杯に向けて、その10年前から人生の選択をしてきた。戻る時にいろいろと考えていた中で「イングランドを押したい」というのはやりがいだった。
18年11月のイングランド戦。前半22分の好機でスクラムは左に流れた。結果的にCTB中村がトライしたが「『右にもっていく仕掛けをしていれば…。何をやっているんだ、自分』という後悔があった」と思い返す。
コロナ禍で20年は代表活動休止。代表選手とは特にやりとりはせず、情報収集と資料準備に努めた。そして21年春の再集合時。写真撮影やフィットネステストの合間を縫い、選手ごとに15分間のプレゼンテーションを行った。「基本的にスクラムは最後。選手は攻撃、防御…覚えないといけないことが多い。何を話すか、何を見せるかは全て決めている」。スクラムに命を懸けるコーチを、FWは信頼してきた。
この日の最終盤。選手を入れ替えながら組んだスクラムで崩されたという課題は残る。記録上では、ボールを失ったのは0本。それでも満足はないはずだ。残すサモア、アルゼンチンも強力FWが自慢。勝利の生命線は、ここからも譲れない。【松本航】
▽フッカー堀江(先発起用に応え、スクラムを巧みに統率) どこかで仕掛けようと思いながら組めた。結構プレッシャーをかけられたと思う。
▽プロップ稲垣 スクラムに関しては、すごくいい手応えがあった。ラインアウトでプレッシャーをかけられてしまったことが課題。自分たちでマイボールを獲得できないと用意してきたプレーができない。
▽フランカー・ラブスカフニ(出場停止明けで3試合ぶりの代表戦。FW3列目を担い) 本当にワクワクする瞬間を待っていた。80分間、頑張り通すことができた。まだ2試合ある。いい試合をしたい。
◆昨年11月のイングランド戦 観衆8万1087人の敵地で主導権を握られた。前半21分までスクラムで3回連続反則。1度目はトライ献上につながり、自陣に押し込まれた。プロップ具は頭を抱え、ジョセフHCは「マジックはない。しっかり練習する」。前半で6-24と劣勢に陥り、計7トライで52失点で大敗した。