日本相撲協会の北の湖前理事長(55=元横綱)が、現役時代の八百長疑惑記事を掲載した週刊現代発行元の講談社などに、名誉棄損で損害賠償などを求めた訴訟の口頭弁論が16日、東京地裁で行われた。記事では前理事長が横綱だった75年春場所千秋楽で、大関貴ノ花(先代二子山親方、故人)との優勝決定戦で敗れた一番が八百長とされているが、記事を書いた武田頼政氏は、これは先代同親方元夫人の藤田憲子さんが情報源だったことを証言。貴乃花親方(元横綱)の初優勝についても「藤田さんから八百長があったと聞いている」などと話した。

 被告の武田氏は、ためらうことなく八百長記事の情報源を明かした。「先代二子山親方の奥さんだった藤田憲子さんです。当時のおかみさんです」。被告側代理人の弁護士から「藤田さんから特定の取組で八百長があると聞いたのですか」と問われると、「北の湖と元大関貴ノ花の取組です」と続けた。

 問題になった記事では情報源は明かしていないが、75年春場所千秋楽で貴ノ花と北の湖の優勝決定戦(貴ノ花が初優勝)に八百長があったと指摘している。今月3日に朝青龍が出廷した裁判では、「取材源の秘匿」を守った武田氏だが、藤田さんから聞いたという「八百長情報」の詳細を語り始めた。

 武田氏

 (貴ノ花は)優勝祝賀会が終わった後に、1人で会場でたばこを吸っていたらしいです。その時、遅れて会場に着いた藤田さんは、(夫の)貴ノ花から「400万円を用意してくれ」と頼まれたというのです。藤田さんは「(貴ノ花は)当時の二子山親方(元横綱初代若乃花)の指示で(八百長を)やった」と話していました。

 さらに武田氏は「藤田さんから聞いた話」として、先代二子山親方と藤田さんの次男貴乃花親方にも触れた。「貴乃花親方が初優勝(92年初場所=当時は幕内貴花田)した時にも(八百長が)あったと聞きました。ただ、これは彼が主導でやったわけではなく、先代二子山親方が裏で(手を)回しているのを藤田さんが見たのです」。当時、19歳5カ月の貴花田による史上最年少優勝に国民は熱狂した。これに「片八百長」があったことを藤田さんが告白したと主張。八百長報道を続ける同誌でも報じていない「衝撃の発言」に、大法廷の傍聴席もざわつき始めた。

 「藤田さんが情報源」とする発言について、武田氏は閉廷後に「八百長をなくしたいという藤田さんの意をくんで独断でしゃべった」と打ち明けた。藤田さんには(問題の)記事を書くことで了承を得ており、提訴された場合は記事の真実性を示すため、証人出廷してもらうことを約束していたという。現に被告側は藤田さんを証人申請したが、藤田さん側は早々に「出廷はしない」と表明、実際に出廷しなかった。武田氏は「(藤田さんに)お考えになったところもあるのでは」と釈明した。

 この日、藤田さんのマネジャーは「法廷での内容を十分に把握していないので、現段階では何も話せません」と話した。【柳田通斉】