<大相撲夏場所>◇4日目◇14日◇東京・両国国技館

 まげを結ったばかりの東前頭4枚目の遠藤(23=追手風)が、初めて横綱を倒した。鶴竜(28)を、攻めに攻め抜いて寄り倒し。新横綱に初めての土をつけるとともに、史上2位となる初土俵から8場所目でのスピード初金星を手にした。

 いつまでも鳴りやまない「遠藤コール」。勝った瞬間だけではない。初めて勝ち残り、続く日馬富士の相撲後に引き揚げる際も、再び。その熱を肌で感じた遠藤は必死にこらえていた。「今ごろ師匠がテレビを見ている。変な顔をしたら冷やかされると思って、シャキッとしてました」。だが、心の内は違った。「ヤッターと思っていた」「上で相撲を取る横綱を、勝って下から見るのもいいなぁ」。まげを結ったばかりの初々しい若武者が、入門8場所目で初金星をつかんだ。

 3度目の横綱戦。圧力勝ちしたのは挑戦者だった。「立ち遅れないように向かい、あとは体の反応に任せた」。突っ張って、2本入ると体を寄せて必死に食らいついた。土俵際、突き落としを受けかけたが「こんなチャンス、次いつ来るか分からない」。瞬時に右脚を開き、しがみついて寄り倒した。無我夢中の6秒6だった。「横綱に勝つのは夢でなく目標だった。達成できてうれしい」。右足親指の流血が、勲章だった。

 ただ一言、「強い」と語る横綱像。その存在がなければ、今はなかった。小1で強制された相撲。当時は相撲中継が始まると、部屋を離れるほど毛嫌いした。それが小5で変わった。きっかけは朝青龍。スピードあふれる豪快な相撲にむき出しの闘争心、多彩な技に「面白い」と感じた。心をわしづかみされ「録画してまで見るようになった」。

 対面は2度。大関でいた02年の金沢巡業で初めて会い、19歳の日大時代にも食事に訪れた店で偶然、出会った。当時は横綱。以前とオーラが違った。「いい体をしているな。プロに入るのか?

 頑張れよ」。横綱を強く意識した瞬間だった。

 昨年2月の入門会見では2人の名も「目標」に挙げた。1人は同じ石川出身で日大の先輩の横綱輪島。少年時代には「夢」と書かれた色紙をもらった。映像で見た黄金のまわしと同じ左四つに「格好いい」と思わせてくれた人。もう1人が鶴竜だった。春場所前の4日間、胸を借りて3勝63敗。周囲に「今までで一番強い」と漏らした。あれから2カ月。「少しでも成長したなと見せたかった」。横綱によって形づくられた遠藤が、横綱に恩を返した。【今村健人】