<大相撲名古屋場所>◇千秋楽◇27日◇愛知県体育館

 初めての賜杯は、近いようで遠かった。ともえ戦への、いちるの望みを持って見つめた結びの一番。結果が出ると、大関琴奨菊(30=佐渡ケ嶽)は唇をきつく結んだまま、まわしを緩めた。「1日1日の積み重ねと思ってやってきた結果。最後は悔しいです」。

 運命の豪栄道戦。これまで鋭さを放っていた立ち合いが、食い止められた。右半身となり、投げを打たれてから土俵を割った。「負けた相撲は全部(相手を)正面に置いていない。引き出しのなさだね」。08年夏場所の琴欧洲以来8人目のかど番大関優勝を逃し、静かなため息が出た。

 ただ「終わってみれば早かった」という15日間で「やればできるんだということを学んだ」。昨年九州場所で右大胸筋を断裂し、再発が怖かった。場所前、その恐怖を「気持ちで殺す」と表現した。「相撲は数秒間だから、気持ちが強いヤツが勝つんです」。口にした言葉は体現してみせた。

 12勝3敗。準優勝だが、北の湖理事長(元横綱)は「準ずるとは見られない。まぁ来場所、全勝でもすれば…」と綱とりには否定的だ。それでも悔いはない。「負けない相撲を覚えないといけないね」。かど番を乗り越えた30歳。新たな境地に踏み出す姿があった。【今村健人】