水泳の世界選手権は今日16日、中国・上海で開幕する。24日から始まる競泳では金メダルを獲得した日本人選手が来年のロンドン五輪代表に内定する。男子背泳ぎの金メダル候補、入江陵介(21=近大)は得意の200メートルで今季世界ランク1位。心身とも最高の状態で、昨季の世界最優秀スイマー、ライアン・ロクテ(26=米国)との一騎打ちに臨む。

 今、入江が強い。200メートルの持ちタイム1分54秒08は、今季の世界ランク1位。怪物フェルプスを約3秒、ロクテを3秒半以上もリードする。さらに6月の欧州GP3大会は、100メートル&200メートルを完全制覇の6冠だ。水着の品評会となった2年前は1分52秒台で勝負が決したが、すべて禁止されたラバー系素材の水着によるもの。純粋な人間の力が試される今大会、その力は群を抜いている。

 入江陵介と書いて「泰然自若」と読ませる-。上海入り目前の北海道合宿。平井ヘッドコーチが「もう陵介ワールドです。動じない、周りに左右されない。自分の道が見えてきたのかな。(北島)康介とは雰囲気が違うが、オーラみたいなものが出てきた」と言えば、担当する道浦コーチは「2年前とは表情が違う。たくましくなったし、堂々としている」と目を細める。

 まだ21歳の大学生だが、良くも悪くも経験豊富だ。09年5月の日豪対抗200メートルで当時の世界最速記録をマークしたが、着用した水着が規定違反とされ、記録は幻となった。その直後の世界選手権の話題は水着のことばかり。当時を振り返り、入江は「ストレスを感じ、競技に集中できなかった」と言う。昨年は右足首の故障が長引き、本来の泳ぎを見失った。そんな不遇にも慌てず、騒がず、地道に自らの姿を取り戻すことに集中。耐え忍んだ分、ハートはより強くなった。

 前回敗れたピアソルが2月に引退し、200メートルはロクテとの一騎打ちの様相だ。08年の北京五輪では敗れ、09年の世界選手権は先着。爆発的なドルフィンキックを打つロクテに対し、入江はしなやかな肩関節を生かした泳ぎのテクニックで対抗する。いやが応でも決戦ムードは高まるが「水泳はコースが仕切られているし、人と当たって接する競技じゃないですから」と、やんわり周囲をたしなめる。

 レース展開を考えれば、スタートのドルフィンキックでロクテが飛び出し、追いついてもまた50メートルごとのターンで離される。それでも積極的に食らいつき、最後の15メートルで追い込む。入江サイドが狙う逆転サヨナラのストーリーだ。浪花節の道浦コーチは「ロクテも調子よくて、ガチンコ勝負したい」。その一方で、ほんわか大阪人は「意識しません」。無の境地、いや陵介ワールドが、上海を席巻しそうな気配だ。【佐藤隆志】