スマートな慶応ボーイ平泳ぎの立石諒(22=慶大4年)が、心身ともに骨太になった。「五輪にかける思いは誰よりも強い。ここで決めたいんで」。今回は50メートルと100メートルに出場。ただし50メートルは五輪種目ではないため、狙うのは100メートルだ。同種目には世界王者であり、尊敬する北島が控えるが「康介さんだけじゃないけど、負けたくない。最後のところは根性かな」。完全に目の色が変わった。

 北京五輪選考会となった08年の日本選手権200メートル。派遣標準記録を破りながら、末永に0秒16差敗れて3位に終わった。2位までに与えられた五輪切符を目前で逃した。「興奮して空回り。気持ちだけ前へいった。五輪をテレビで見て、本当に悔しかった」。一時期は競技への意欲を失うほど。しかし周囲の励ましに気持ちが切り替わった。自分のためでなく、応援してくれる周囲の期待に応えるため、五輪は譲れない。

 文武両道を地で行く。水泳の専門的な研究ができるとの理由で、受験して慶大の環境情報学部に入学。自らの競技力向上に生かすため、水の抵抗の少ない泳ぎ方を追求する。一方で、継続的に筋トレにも打ち込み、上半身はさらにひと回り大きくなった。日本が持つテクニックに加え、海外選手に対抗できるパワーをかみ合わせるのが狙い。それが立石流「錬金術」だ。

 昨年のアジア大会100メートルで金メダル。今季も5月のジャパンOPで50メートル、100メートルで2冠に輝くなど、好調を維持する。高校2年から世界舞台を経験し、「ポスト北島」と呼ばれた逸材。北島、スプレンガーら群雄割拠の100メートルにも「自分の泳ぎができれば勝てる」。今大会で金メダルなら、スポンサーから300万円の強化費も贈られる。しかし「五輪さえ決まればいい。お金では買えない価値があるんで」。立石の視線の向こうに、破格な夢が待っている。【佐藤隆志】

 ◆立石諒(たていし・りょう)1989年(平元)6月12日生まれ、神奈川県藤沢市出身。湘南工大付高を経て現在は慶大4年。NECグリーンSC玉川所属。09年世界選手権の400メートルメドレーリレー7位。10年アジア大会50メートル平泳ぎ銀メダル、100メートル金メダル。100メートルの自己ベストは、日本歴代2位の59秒48。182センチ、73キロ。血液型AB。