<高校野球春季神奈川大会:桐光学園3-0横浜>◇21日◇4回戦◇保土ケ谷・神奈川新聞スタジアム

 エンジンがかかってきた。「ドクターK」の異名をとる桐光学園・松井裕樹投手(3年)がまたまた快投を演じた。強豪横浜を5安打13奪三振で完封。1回からいきなり6者連続三振を奪い、前日20日の湘南学院との3回戦から“12連続”奪三振。最速145キロの直球とカーブ、チェンジアップに加え、前日は使わなかった「宝刀」スライダーも投げて強力打線を寄せつけなかった。今秋ドラフトの注目左腕が進化した姿を披露した。

 吐く息も白い、気温7度。4月中旬と思えない寒さの中、炎天下の甲子園での奪三振ショーがよみがえった。松井はぬかるんだマウンドを気にすることなく、ゆったりと右足を上げ淡々と投げ込む。糸を引いたようにコーナーへスピンの利いた直球が吸い込まれていった。先頭の浅間を144キロの直球で空振り三振に斬ると、止まらない。2回、兄はロッテの4番高浜に投じたスライダーはあまりに曲がりが大きく、スイング後は左足に当たるほどだ。1年生から名門で4番を務める強打者すら予想を超えた軌道に球場はどよめいた。

 今年に入って「狙わない」と公言していた三振を、狙った。雨の影響で試合は午前10時開始予定から午後2時6分と大幅に遅れた。「こういう時は初回の入りで試合が決まる。ダラッと入りそうだったので三振を意識しました」と集中力を研ぎ澄ます。3回に四球を出すまで6者連続三振。流れを完全につかんだ。

 5回、渡辺元智監督(68)の孫でもある先頭渡辺に初安打となる内野安打を許すと、7番高井にも右前に運ばれ1死一、三塁のピンチを招く。相手のミスもあり切り抜けたが、ベンチに戻ると野呂雅之監督(51)から指示を受けた。「考えすぎだ。夏は相手の弱点を攻めきらなければいけないが、春はお前の直球で押していけ」。速球に強いというデータを意識しすぎて、制球の定まらない変化球を多投したことを反省した。「直球でどこまで抑えられるか楽しみながら投げていました」と振り返ったように、6回から直球の割合を8割以上に増やし、リズムを引き戻した。

 13奪三振のうち、直球で決めたのは10個。キレを増した直球は一冬越えて大きくなった体から生み出された。走り込みを増やし、ウエートトレーニングを強化。体重は3キロ増の76キロになった。父良友さん(54)は「ジーンズが入らなくなったんですよ。太ももとかが大きくなったから、全部弟(和輝さん=習志野1年)へのお下がりになりました」と笑いながら話す。太くたくましくなった、粘り強い下半身が空振りの取れる直球を生み出した。

 昨夏の県大会に続き横浜を下し、公式戦で連勝したのは創部初だ。県大会ベスト8にも松井は「目標は全国制覇なので、1試合1試合勝っていきたいです」と淡々と話す。Vロードへ、1歩ずつ進んでいく。【島根純】

 ◆松井裕樹(まつい・ゆうき)1995年(平7)10月30日生まれ。横浜市出身。小学2年で野球を始め、3年生から投手。横浜の青葉緑東リトルシニアに所属して中3では全日本選手権で優勝した。中学の先輩がいたことで桐光学園に進学。昨夏の甲子園1回戦の今治西戦で大会記録となる1試合22奪三振など、準々決勝で敗れるまで4試合で68奪三振。目標とする投手は巨人杉内で、小さい頃は巨人高橋由のファンだった。家族は両親と弟。174センチ、76キロ。左投げ左打ち。