ノリノリのルーキーが、首位陥落の危機を救った。阪神ドラフト3位の江越大賀外野手(22)が、1点を追う7回に同点4号ソロだ。9回には決勝の適時二塁打。今季最多タイの貯金3でヤクルトと首位並走だ。江越が打点を挙げれば7戦無敗。勝利を呼ぶバットで明日31日からのヤクルトとの首位決戦へ、弾みをつけた。

 たった1人のルーキーの「二振り」が、地獄から天国へと虎を導いた。敗れれば、逆転負けによる首位陥落展開…。それが同点ソロに、V二塁打で3連勝、同率首位キープの今季最多タイ貯金3。ヒーローとなった新人が、会心の笑顔だ。

 「どっちの打席も初球からいくと決めていた。自分はそういうスタイルなので。両方とも出来て良かった」

 連日続く「大賀ドラマ」。この日の見どころは、1点ビハインドの7回だった。1死から打席が巡ってきた。マウンドには中日2番手田島。初球だ。アーチを確信したかのようにバットを放り投げると、打球は左中間スタンドに着弾。表情ひとつ変えず、ダイヤモンドを1周した。わずか5日前、決勝2ランを放った24日DeNA戦(甲子園)でのはしゃぎようとは、まるで別人だった。

 もう「一振り」は、同点での9回1死二塁。イケイケの新人に虎党の期待も高まる。左翼席からは「江越コール」も。3番手又吉の初球、真ん中に入ってきたスライダーを仕留め、試合を決めた。

 首脳陣に期待されながら、6月まで42打数4安打。打率は1割を切った。7月1日に3度目の出場選手登録抹消。2軍ではコーチ陣に「途中で代えられているようじゃダメだ。お前はそれだけの選手なんだから」といつもハッパをかけられた。悔しさを力に変えた。

 江越が持つ反骨心は幼少期に育まれた。友達とかくれんぼや鬼ごっこをした際は、負けず嫌いな性格から鬼をしようとしなかった。運動会では、アンカーを巡って同級生と大げんかをしたことも。負けん気の強さは努力につながった。その努力をもとに、築き上げられた身体能力。小学校6年時の身体測定。ソフトボール投げで70メートルほど先にあるフェンスを越え、隣の民家をも越える記録を残した。そんな下地に、この日いずれも1球で捉えた集中力が備われば怖いものなしだ。

 少年時代にそんな逸話を持つ男は、虎で不敗神話を築きつつある。打点を挙げた試合で7試合無敗。チーム内の中堅争いでも間違いなくトップに立ったが、浮かれることはない。「まだまだです。まだまだこれから」。どこまでも貪欲で、ミラクルを起こすエネルギーの持ち主。猛虎はこんな男を待っていた。【梶本長之】

 ▼江越が打点を挙げた7試合で、阪神は全勝。打点を伴った8安打のうち、過半数の5安打が肩書つき(先制3、同点と勝ち越し各1)と価値ある一打が続く。この試合では、初めて打点つき安打を2本放った。なお球宴明け8試合での江越の8打点は、2位マートン5打点を抑えチームの打点トップだ。ちなみに、球宴明けで本塁打を放った阪神打者は江越だけ。