被災地の人たちへ、少しでも勇気を-。熊本出身のヤクルト山中浩史投手(30)が、魂を込めた99球で今季初勝利を挙げた。2回にゴメスに1発を浴びたが、制球を乱すことなく6回を6安打1失点にまとめた。故郷は14日に起きた大地震で甚大な被害を受け、今も余震に悩まされながら、多くの人々が避難生活を余儀なくされている。サブマリンは、特別な思いでマウンドを守った。

 多くの報道陣に囲まれた山中は、悲痛な面持ちだった。初勝利の喜びよりも、被災者の人たちを気遣う思いがあふれた。「被災者の方のことを考えて。この先の不安や余震の恐怖を考えると、野球で活躍して明るい光を与えることが僕らの仕事だと思った。高校の同級生の家も全壊して…。その友達からは『希望もない』と言われて。何とか励みになれれば」。必死に言葉を絞り出した。

 そんな人たちのために、ふがいない姿は見せられない。だからこそピンチでも動じなかった。4点リードの6回無死一、二塁。2回に1発を許したゴメスに冷静に向き合った。緩急で勝負を仕掛けた。外角低めスライダーでタイミングを外し中飛。続く鳥谷は、122キロの緩い直球で遊ゴロで片づけた。「とにかく緩急を使った投球でいこうと」。最後は西岡を109キロのスライダーで空振り三振。グラブをたたいた。さらに右手でガッツポーズを決めた。思いがあふれていた。

 脳裏に浮かんでいたのは、故郷の変わり果てた姿。社会人時代を過ごしたホンダ熊本も甚大な被害を受けていた。「自分の実家は幸いにも大丈夫だったけど工場は壊滅状態らしい。生産中止で、先行きが見えない」と下を向いた。早希夫人ともホンダ熊本で出会った。妻の実家がある熊本・菊陽町に住む義父母はいまだに車中泊という。「携帯電話に流れる緊急地震速報で目が覚めるらしい。ろくに眠れないって」と、ため息をついた。

 自分には何ができるか-。登板前夜、テレビに流れる地震情報を見て自問自答を繰り返していた。そんな時、ふいに地元の友人たちからメールを受け取った。就寝直前に見た文面には「頑張れ」とあった。携帯電話を眺め、涙が止まらなかった。「俺が励ます方なのに。何でなんだろう」と胸が痛かった。「絶対に負けられない。野球で何とか勇気や希望を与えたい」。その思いだけで、今季初の1軍マウンドに立った。1勝目を手にした満足感はない。それ以上に被災地へ、少しの希望と勇気を届けられたことが良かった。【栗田尚樹】

 ◆山中浩史(やまなか・ひろふみ)1985年(昭60)9月9日、熊本県生まれ。必由館高2年で下手投げに転向し3年夏に甲子園出場。九州東海大、ホンダ熊本を経て、12年ドラフト6位でソフトバンクに入団。14年7月に交換トレードでヤクルトに移籍。移籍2年目の昨季、プロ初勝利から6連勝するなど活躍した。175センチ、82キロ。右投げ右打ち。血液型O。推定年俸2200万円。