<さよならプロ野球>

 2014年も多くの選手が球界の第一線を退いた。「さよならプロ野球」で新たな人生を歩み出した元選手を紹介する。

 迷いに迷っての選択だった。「1週間はずっと悩んでいました」とDeNAから戦力外となった伊藤拓郎投手(21)は言った。

 2度のトライアウトを受けたが声はかからなかった。あきらめるべきか。NPBの世界でまた挑戦するべきか。伊藤が選んだ選択はBCリーグ群馬だった。「厳しい世界ということは分かっている。でも野球が好きだから。もう1度、NPBに戻りたい気持ちが強かった」。社会人チームからの誘いもあったが、独立リーグなら1年後にNPBに戻れるチャンスがある。少しでも早くまた戻ってきたいという思いだけだった。

 帝京時代の1年夏。伊藤は鮮烈はデビューを飾った。甲子園で1年生最速となる148キロを記録。時の人となった。伸び悩んだが、11年のドラフト9位で入団。1年目から1軍で登板するなど潜在能力の高さを発揮した。しかし、右肩の違和感で思うような投球ができず、今季はオーバースローからサイド気味の投球フォームに変更。「体の調子が良くなくて」。トライアウトでも最速は138キロ止まり。自分を出せないまま終わった。「悔しかった」。それだけだった。

 そんな伊藤にチャンスを与えてくれたのが群馬でシニアディレクターを務めるラミレス氏(元DeNA)だった。1軍での登板は1年目の2試合のみ。決して満足のいく結果ではなかった。「現状がこれなんで仕方がない。悔しいです。もう1度自分の投球がしたい」。このチャンスは絶対に手放さない。「感謝して一からのスタートと思ってやっていきたいです」。群馬という地でひと花咲かせ、再びプロの世界に戻る。【細江純平】

 ◆伊藤拓郎(いとう・たくろう)1993年(平5)4月2日生まれ、東京都出身。帝京から11年ドラフト9位でDeNA入団。1年目に2試合登板したがその後1軍出場はなし。プロ通算成績は2試合0勝0敗、防御率0・00。185センチ、87キロ。右投げ右打ち。