原点回帰で逆襲だ!

 阪神新井貴浩内野手(36)が13日、鹿児島市内の最福寺で護摩行(ごまぎょう)を行った。広島時代の04年12月から始めた修行。その荒行に挑むシーズンオフを迎えるのもこれで10度目。昨年から1000本増えた護摩木3000本が繰り出す炎の中、無心で不動真言を絶叫した。池口恵観法主(77)から授かった「快打炎心」を胸に、新外国人のマウロ・ゴメス内野手(29=ナショナルズ3A)を待ち受ける。

 あまりの威力に新井が顔をゆがめた。炎と向き合った時間は昨年と同じ1時間40分。だが、今年は火力が違う。護摩木が1000本増えた分、経験したことのない巨大な火柱となっていた。最後の15分、下を向いて目をつぶる場面が増えた。それでも、必死に燃え上がる炎を、真っ赤な顔で見つめ直した。

 新井

 何年やらせてもらっても苦しい。10年前お世話になったときは、自分がレギュラーを取るぞという時。もう1回初心に帰るいい機会じゃないかな。(最後は)全身にしびれがきて、倒れるかと思った。

 初めて最福寺を訪れたのは04年12月。広島でレギュラーを狙っているときだった。10度目のオフを迎えた。「護摩行は心の支え。節目なんですが、何年やっても苦しいです」。その原点を思い返した。昨年は「気の出方が弱い」とダメ出しした池口法主も、「(これまでと)火の力が全然違った。それでも最後まで頑張ってくれた」と新井の今季にかける“気”を認めた。

 昨年は140試合に出場も、後半戦に失速。かつての定位置だった4番にいたっては、12年8月8日巨人戦(東京ドーム)が最後だ。今月30日には37歳となる。周囲が衰えを懸念する中、新井の復活を願う池口法主は、今回初めて野球にまつわる言葉を贈った。

 快打炎心-。「体と心をフル回転してしっかりとプレーしなさい」(池口法主)。学生野球の父といわれた飛田穂洲が使い、巨人長嶋茂雄終身名誉監督も現役時代にサインに添えた「快打洗心」。その1字を池口法主は「炎」に置き換えた。

 新井

 (打席に立つときに)ふっと気が抜けることがあるから、それをなくすようにしなさいと言われた。(護摩行中は)何も考えられない。しっかり声を出さないと倒れる。無心だった。

 炎の前で原点に戻った新井。新助っ人ゴメスが加入するが、ライバルを気にかける必要などない。体と心をフル回転させ、無心で目の前の好球に食らいつくこと。逆襲は、きっとそこから始まる。【松本航】

 ◆護摩行(ごまぎょう)

 インド伝来で密教最高の修行法。燃え上がる炎の前で全身全霊を込めて不動真言を唱え、煩悩を焼き尽くす。最福寺は鹿児島市平川町にある真言宗の寺で、起源は室町時代。67年に池口恵観氏が法主になった。最福寺での護摩行は、元阪神の金本知憲氏や元オリックス清原和博氏、広島の野村謙二郎監督が現役時代に経験。作家の家田荘子さんや民主党の菅直人氏はじめ、橋下徹大阪市長も弁護士時代に滋賀県内の寺院で体験した。<池口法主からの言葉>

 ◆08年「常在戦場」

 「いつでも戦場にいる心構えで事をなせ」という心得。阪神移籍したオフに授けた。

 ◆09年「背暗向明」

 阪神移籍の前年は8月の北京五輪後に腰の骨折で離脱。「どんな時でも光のある方へ、明るい方へ、一心不乱に進んでいきなさい」という思いを込めた。

 ◆10年「中心を取る」

 今やるべきことを常に忘れないという意味。主軸として期待をかけた。

 ◆11年「小欲を大欲で制す」

 小欲は自分のため、大欲は人のためという解釈。「真言密教の教えの中にあるらしいです。大きな欲を持って1年間戦いたい」と気合。

 ◆12年「勇猛精進」

 勇敢に、精力的に物事を行うこと。「人の3倍以上頑張る。人が10倍やったら30倍、40倍やる」という思いを込めた。

 ◆13年

 恒例だった短い言葉は贈られなかったが、「気の出方が弱い。本塁打王をとったときの気の出し方を思い出せと言いたい」と辛口のダメ出しで奮起を促した。