王者井岡一翔(26=井岡)が、もん絶KOで2度目の防衛に成功した。4月以来の再戦となった前王者のフアンカルロス・レベコ(32=アルゼンチン)を11回1分57秒TKOで下した。世界戦のKO勝利は13年9月以来で、世界3階級でのKO勝ちは日本人初。早ければ今春にも見据える他団体王者との統一戦へ、弾みをつけた。井岡の戦績は20戦19勝(11KO)1敗となった。

 衝撃のボディーだった。11回だ。井岡がこん身の力を込めて左ダブル、さらに右でレベコの腹を打ち抜いた。前王者は顔をしかめ、前のめりに倒れ込んだ。もう立てない。強烈なもん絶KOでリングに沈めた。

 「今日は必ずKO決着をつけたかった」。15年4月に挑戦者として臨んだレベコ戦は、2-0の小差判定勝ち。納得いかず再戦を要求してきた前王者は、前日の調印式で、使用グローブの色を巡り40分近く難癖をつけてきた。その場は冷静に対応した井岡だが、燃えに燃えていた。「ストレスは僕だけじゃない。チーム井岡の思いを晴らそうと、覚悟、気合が入ってた」。1回から果敢に前に出て、4回と9回に連打で追い込んだ。因縁の敵をあふれる闘志でたたきのめした。

 再戦にまつわる「井岡家の悪夢」も振り払った。元2階級制覇の叔父弘樹氏(46)は、獲得した2本のベルトともリマッチで失った。同じ過ちをしないため、スパーリングを通常の倍、200回以上消化。食事法も小麦粉の摂取を控え、積極的に野菜を食べ酵素玄米を取り入れた。サンドバッグ打ちでは、3分で670発のパンチ数も記録。猛練習の成果を見せてくれた井岡に弘樹氏も「勇気と感動をもらった」と感激した。

 海外進出を目指す王者が増える中、「全く興味ない」と笑う。ジムの世界王者は井岡だけ。まず脳裏に浮かぶのは「負けられない」という思い。以前はバンタム級まで制圧する5階級制覇の夢を掲げていたが「今は考える余裕がない」。ジム興行を背負う大黒柱として、勝ち続けることが最優先事項だ。

 大みそかに責任を果たし、16年はステップアップの年になる。目標はフライ級統一王者。「僕自身、伸びしろがあるし、強くなる可能性を感じる。唯一無二、僕しかできないことをやりたい」。強い思いで新年も戦い続ける。【木村有三】

 ◆井岡一翔(いおか・かずと)1989年(平元)3月24日、大阪・堺市生まれ。元世界王者井岡弘樹氏のおい。大阪・興国高で史上3人目の高校6冠。08年に東農大を中退しプロ転向。7戦目で世界王座獲得し当時の国内最速記録樹立。12年6月にWBA、WBCミニマム級王座を統一し、日本人初の2団体王者。同12月にWBA世界ライトフライ級王座を獲得し2階級制覇。15年4月に同フライ級王座も獲得し、世界最速18戦目で3階級制覇。165センチの右ボクサーファイター。家族は両親と弟2人。

 ◆レベコとの初戦VTR 15年4月22日、井岡は8度防衛中だったレベコと対戦。激闘の末、判定にもつれこみ、ジャッジ3人は114-114、116-113、115-113で井岡が2-0で勝利。涙の3階級制覇を達成した。

 ◆世界戦3階級でのKO 日本人の世界3階級制覇は亀田興毅、井岡一翔、八重樫東の3人。亀田はWBAバンタム級戦で9勝中2度のKO勝ちもWBAライトフライ級戦(2勝)とWBCフライ級戦(1勝)はいずれも判定勝利。八重樫はWBAミニマム級戦、WBCフライ級戦で各1度KO勝ちも、IBFライトフライ級戦(1勝)は判定勝ち。井岡はWBCミニマム級戦(WBAとの統一戦含む)で4勝中2度、WBAライトフライ級戦4勝中3度KO勝ちがあり、今回で日本人初の世界戦3階級でのKO勝利。